オミクロン株、その強大な感染力
外岡立人 元小樽市保健所長、医学博士
2021年8月中旬以降、新型コロナ流行第五波の感染者発生数が急速に減少してきた。理由は、その6週間前から開始した大量ワクチン接種に基づいたもので、10月には先の流行波で見られた発生最低値を遙かに下回っていた。
この結果は、明らかに易感染者数の減少が起きたことによる(ウイルスに免疫を持っていない人々)。要するにウイルス感染者から飛散されるウイルスが感染相手を見つけられないことから、感染者数は減ったのである。これまでの三密防止、夜間外出自粛などの非薬理学的感染予防対策では得られなかった“切れの良い感染者数減少”が得られたのである。
ウイルスに感染する可能性のある人々を減少させることが、パンデミックの基本であることが初めて実感された。
ワクチン。その早期製造と早期投与がパンデミック対策の基本なのである。
しかし、ワクチンにそれほどの重要性を抱いていない人々も見られる。
日本ではなぜ8月中旬から急速に感染者の発生が減少したのだろうか等と、(私に言わせたら)寝ぼけたことを言う人々も少なくはないように感じる。
彼らは日本人は本質的にコロナ抵抗力を保有していて、それをファクターX等と表してお茶を濁す。最近ではHLAにからめて説明しようとする人もいる。
日本人がコロナに関して特有の抵抗力をもっているのかについて、私は別の考え方をしている。
それは簡単な話である。
現在オミクロン株が世界中で拡大してきている。
しかし、時間をかけて世界各国におけるオミクロン感染者の発生状況を見ていると、見えてくることがある。なおオミクロン株が発生している各国の状況は簡単に分かる。発生数に比して死者数が極度に少ないからだ。それはジョンズ・ホプキンス大学が世界に提供している、日々のCOVID-19発生状況グラフを見ていると一目瞭然だ。
ヨーロッパが圧倒的にオミクロン感染者数が多く、またその増え方が尋常でなく速い。グラフで感染者数の増え方を見ると、ほぼ直線的に伸びている(正月中から日本の感染者数も直線的に増えている)。
アジアでは現在、目立って増えている国は日本くらいであるが、レベルはヨーロッパに比べると一桁ほど低い。
オミクロン株発生の地、南アフリカでは当然多くの感染者数が出ているが、やはり欧米に比べると桁違いに少ない。
オミクロンは英国、フランス、イタリア、オランダなど、生粋の白人系の国で多い。
有色人種の国ではそれほど感染者数は多くならないように私は思っているが、それはいずれ明らかになることだ。白人系と有色人系で新型コロナに対する感受性が異なっている。私の直感力から出た仮説である。
話をワクチンに戻す。
インドで2021年4月から6月にデルタ株で多くの感染者と死者が出た。悲劇的映像がテレビでも流れた。そしてインドネシアでもデルタ株は同年6月から8月に広がった。コロナウイルスの発生地はインドネシアではないかとまで、欧米のメディアは過剰に伝えていたくらいだ。
しかしである。両国とも大量のワクチン接種で、見事なまでに感染者の発生を減らしたのである。感染者数の発生減少は、ワクチン投与で集団免疫が形成された頃(4週前後)から始まり、2ヶ月程で感染者発生はほぼ収まった。日本と同じである。
二カ国で発生したウイルスはデルタ株である。十分なワクチン量を数ヶ月間投与すると感染者の発生は抑えられるのである。その原則を守る限り、コロナに対するワクチン戦略は成功することが明らかになっている。
国は日本が新型コロナ対策に成功していると考えているのかどうか知らないが、国会での討論を聞いていると、与党議員の中には、そのように発言する人もいるようだ。
成功の程はともかく、ワクチンを多くの国民を対象に、より短期間に大量投与する、言ってみれば絨毯爆撃的ワクチン接種が効果を持ったことは確かである。それはインドも、インドネシアも。さらに多分中国も。
ワクチン接種は国民の自由であるとの考え方が強い欧米では、絨毯爆撃的に一斉に大量接種は不可能であり、中途半端な接種を繰り返し、ワクチン効果についての明確な結果が得られないまま今日に至っている国も多い。
しかし感染力抜群のオミクロン株は欧米社会に一気に拡大し、それは天井知らずのごとく、増え始めた。
ここにきて欧米でもワクチンを求めだした。三密防止、マスク着用、手洗い等の、姑息的予防対策ではオミクロンは抑えきれないことを知ったからだ。
さらには、接種ワクチンの免疫効果がそれほど長期間持続しない事実も知った。
オミクロンが増え続ける英国は、ブースターワクチン接種が必要であることを悟った最初の国であった。最初のワクチン接種後の6ヶ月にブースターワクチンをし始めたが、しだいに4ヶ月、さらには3ヶ月へとブースターまでの期間を短縮した。
それは正しい。
ブースターワクチン接種で、失われている免疫的記憶を呼び戻す。間隔が短いほど効果は強い。ブースターの回数が多くなればなるほど、免疫は賦活され、産生される抗体量は増える。
オミクロン株はワクチン抵抗性という面倒な特性を持っている。しかしブースターワクチン接種で抗体量を増やしたなら、そうした特性を打ち破り、免疫力でオミクロンを排除出来る。イスラエルもブースターワクチン接種4回目を開始した。成功しだしている。感染者数は減少に向かいだしている。
さて日本。
2022年1月に入って、オミクロン株は国内で増えだし、第六波を形成しつつある。正月明けには対数的増加を始めた。
筆者は12月23日に第六波発生の兆候を確認し、その後の拡大シミュレーション図【筆者ブログより引用】を作成した。
2月上旬のピークに向かって、日本のオミクロン感染者は1日10万人を超える可能性が出ている。いやそれは有色系人種として少ない見積もりではある。欧州の英国、ドイツ、フランス他の国と同等のオミクロン感受性があるとしたなら、さらに20万、30万という数値もあり得るのかもしれない。
でも我々は有色人種なのだ。コロナに強い、そしてオミクロンにも強いはずだ。
私は自分にそう言い聞かせて、日々の感染者発生数を世界の国々と日本国内の発生数を比較する日々が続いている。
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外岡立人(元小樽市保健所長、医学博士)
◇◇外岡立人氏の掲載済コラム◇◇
◆「時代が要求する大きな生活変容」【2021.9.21掲載】
◆「我々をコロナから守るのは新鮮な空気である」【2021.5.25掲載】
◆「コロナ日記」【2021.1.26掲載】
◆「鳥の歌」【2020.9.29掲載】
☞それ以前のコラムはこちらから