年賀状と夫婦別姓
片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)
1.年賀状今昔
毎年、お年玉付き年賀はがき(以下、年賀はがき)の発行枚数が減少している。日本郵便によれば、2022年用の年賀はがきの当初発行枚数は前年比約6%減の約18億3千万枚である。年賀はがきの発行枚数のピーク時は2003年で、約44億6,000万枚であったというから半減以下である。
この理由はいくつもある。まず、そもそも、年賀はがきを送るという風習が廃れてきたこと、第2にメールやライン等のSNSが年賀はがきに取って代わったこと、第3にかつてのように簡単に住所を知ることができなかったこと、などなどである。
卒業した教え子たちから元旦に年賀状を受け取ることは教師みょうりに尽き、本当に嬉しい。だから、日本郵便と同じくらい、年賀状を送り送られるという風習が廃れるのを憂いている。
2.受け取る喜び
特に結婚しました、子どもが生まれました、家を建てましたといった彼らのファミリーヒストリーが綴られた年賀状が楽しい。さらに、家族写真付きの年賀状であれば、なおさらよい。しみじみと学生時代の彼ら彼女らのことを思い出し、成長する、大人になるというのはこういうことかと思う。
そんな年賀状を受け取って、1つ、困ることがある。それは夫婦連名の時、その妻がかつての教え子の女子学生であると、すぐにわからないことがあることである。
この一事をもってしても、私は現行民法の夫婦同姓制度には反対である。そのため、同窓会等で結婚した彼女たちと会っても、旧姓で呼ぶことを信条としている。
3.夫婦別姓の道、遠し
周知のとおり、夫婦の圧倒的多数が夫の姓を名乗る。2019年はその割合が95.5%である(人口動態統計)。しかし、これに少なからぬ人々が異議を唱え、せめてもと、選択的夫婦別姓制度を求めている。ある日を境に、突然、名字が代わり、平気でいられる人ばかりではないのである。
政府も世情を鑑みて様々な調査を実施したり、法制審議会等で検討を進めている。法務省の調査によれば(2010年)、結婚後に夫婦いずれかの姓を選択しなければならない(=夫婦同姓の強制)国は日本だけで、ほかの国は選択的夫婦別姓制度や夫婦別姓制度を採用しているという。
一方、司法は上記制度には消極的である。2015年、2021年の最高裁判決はいずれも夫婦同姓を強いる現行民法が憲法24条等に違反しないと判断した(ただし、これに対する反対意見あり)。
有責配偶者からの離婚は認めないと判示した有名な最高裁判決-通称、「踏んだり蹴ったり判決」-が1952年に出された。これを覆し、有責配偶者からの離婚請求が認められることがあるとの最高裁判決が1987年に出た。35年の歳月を経ての判例変更である。
選択的夫婦別姓制度が実現するのにも、かくも長き時間がかかるのだろうか。いやいや、変化のスピードは加速度的にアップしている。現役学生が結婚した時には夫婦別姓で連名の年賀状が届くと期待したい。
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片桐由喜(小樽商科大学 教授)
◇◇片桐氏の掲載済コラム◇◇
◆「高齢店子、お断り」【2021.10.12掲載】
◆「脱託老所 -何がしたくて、何ができるのか?-」【2021.6.1掲載】
◆「卒業論文から学ぶ」【2021.2.2掲載】
◆「オンライン授業と遠距離通学」【2020.10.27掲載】
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