消費行動は投票行動
片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)
クラウドファンディング
近年、有効な資金調達手段としてクラウドファンディングがある。インターネット上で資金が必要な事業を説明して、その事業の趣旨目的に賛同した人が資金を投じる仕組みである。金銭の投入はその提供先を支持することを意味し、彼らの事業達成を可能にする。消費行動は投票行動と言われる所以である。逆からいうと、得票できなければ落選するように、支持を得られない事業は資金繰りに窮し、誕生することも、存続することもできない。
消えゆく存在
その典型的な例が客を大型量販店やインターネットショッピングに奪われたデパートの閉店であり、自家用車の普及により乗客が減少した過疎地の鉄路廃線である。皮肉なのはデパートの閉店セールには客が押し寄せ、異口同音に「このデパートがなくなると寂しくなる」、「もっと、頑張ってほしかった」とテレビ取材のマイクに悲しげに答えることや、廃線が決まると沿線自治体やそこの住民が反対して、「私たちの足を守れ」、「ますます地域が廃れる」と憤まんやるかたなく語ることである。
なぜ、時にはデパートで買い物しなかったのか、普段、自動車ではなく電車に乗って、なぜ移動しなかったのか。その存続を望むなら、金を出して、経済的に支えなければならないことは自明なのに、それをしないで、なくなるときに惜しみ、嘆くのはご都合主義というものであろう。
買い物難民誕生
1円でも安いものを買うことがよしとされ、その消費行動がどういう影響を及ぼすかは普段、あまり考えない。過日、ラジオ番組で以下のような話を聞いた。「洋服売り場に勤めている。客が来て、さんざん試着するが、ここでは買わない。きっと着心地や似合う似合わないを確認し、ネットで買うのだろう。それって、どうなのか。試着できることの意味を考えず、自分さえ安く買えればいいのか。こういうことが続くと、心が折れる。」というものである。
また、地方都市に住む人の中には歩いて5分の所にスーパーマーケットがあっても宅配スーパーを利用する人がいる。品ぞろえと価格で地方のスーパーマーケットは宅配スーパーに勝てない。人口減少に加えて、残った者が実店舗を利用しない状況が続けば、早晩、どのような結末になるかは目に見える。こうして少しずつ、いろいろな業態の実店舗が減っていく。過疎地域で買い物難民が誕生する背景である。
賢明な消費者
過疎地域であっても生活圏として成立しうる仕組み、あるいは、過疎地域そのものを解消する決定的な打開策もない現状で、頼れる家族がいなくて、自動車を運転できない(できなくなった)高齢者は否応もなく買い物難民となってしまう。このような事態に対し当事者はもちろん、そうでない者も直接、間接に少なからぬコストを支払っている。たとえば買い物難民となった当事者は他地域の人々よりも割高の商品を購入せざるを得ない。他方、当事者でない者は、たとえば実店舗閉鎖により職を失った人への社会保障給付を税金や社会保険料という形で負担している。
私たちは安い買い物をしているようで、実は高い買い物をさせられているのではないだろうか。安物買いの銭失いを知る賢い消費者にならなければならないだろう。そのためには支えるための消費を含む消費者教育が求められる。
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)
◇◇片桐氏の掲載済コラム◇◇
◆「年賀状と夫婦別姓」【2022.1.18掲載】
◆「高齢店子、お断り」【2021.10.12掲載】
◆「脱託老所 -何がしたくて、何ができるのか?-」【2021.6.1掲載】
◆「卒業論文から学ぶ」【2021.2.2掲載】
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