“フリーランス”という働き方 何が問題なのか
金子順一 全国シルバー人材センター事業協会 会長
最近耳にすることが多い、“フリーランス”という働き方。就業保護の必要性が指摘されるが、この働き方の何が問題なのか、改めて考えてみたい。
労働者、それとも個人事業主?
フリーランスに関し統一された定義はないが、従来の分類に従えば、“労働者”と“個人事業主”の中間に位置する働き方と言えるだろう。ただし、企業とフリーランスの法的関係は、雇われて働く労働関係ではなく、請負・委任関係とされる。個人事業主であり、労働者を対象とする労働関係法令(労働基準法、最低賃金法、労災保険法等)は当然ながら適用されない。職域の社会保険にも加入できない。
そこで特に問題となるのは、法的には個人事業主とはいえ、フリーランスは発注企業との間で従属的関係に陥りやすいことだ。例えば同一企業との継続的取引を想定すると、不利益をもたらすこと(低報酬、報酬の減額・支払い遅延、納期の急な変更、一方的な仕事のキャンセルなど)があっても、発注者の申出は断りにくい。断れば仕事を失うおそれがある。仕事を失うか、不本意な取引に甘んじるかである。立場が弱く、ハラスメントが起こりがちとも言われている。
これが労働者であれば、話は一変する。労働関係法令による保護が及ぶからだ。賃金の支払いは、労働基準法が使用者に確実な履行を求める。不払いや支払い遅延は法違反で罰則がある。解雇には労働契約法、労働基準法による規制があり、失業すれば雇用保険が用意されている。労災事故には労災保険による補償がある。そして強力な権限を持つ労基署による監督指導体制が敷かれている。
発注企業と従属的な関係になりがちな個人事業主、企業に雇われ使用者の指揮命令を受けて働く労働者・・・・両者は実態としてかなり近い働き方でありながら、就業保護には大きな差がある。対策の必要性が叫ばれる所以である。
確かに、個人事業主を保護するしくみもある。事業者間の不公正取引を規制する、独占禁止法と下請代金支払遅延等防止法(下請法)である。この法は受注者が個人であっても適用され、「優越的地位の濫用」による不公正取引は違法とされる。しかし、法制度の周知がどこまで行き渡っているのか、困難に直面した個人事業主に十分な相談、支援、救済体制があるのか、フリーランスの就業保護対策としては心許ない。
多様な就業実態と課題
実態はどうだろうか。政府はフリーランス人口を462万人(内閣官房調査、2020年)と推計するが、1千万人を優に超えるとの民間推計もある。定義がまちまちでフリーランスの全体像は必ずしもはっきりしない。ただ、多様な就業実態と課題がそこにあることは間違いない。
高スキルの技術者は、むしろ進んで個人事業主として働くことを選ぶのではないか。自由に仕事を選び柔軟に働くことができれば、仕事・生活両面でプラスになる。専門知識、スキルをいかし企業と対等に交渉できるフリーランスの場合、問題とすべき事情はないのかもしれない。
しかし一方、同一企業に仕事の多くを依存するケースでは、発注者の意に反した行動はとりにくく、従属的な関係が生じやすい。電気工事、運送請負、雑誌のフリーライター、ジムのインストラクター。最近、報道で問題が指摘された事例である。合理的理由のない報酬の減額、仕事の一方的な打ち切りなどの深刻な事態が、フリーランスの生活を脅かす。演劇活動の俳優や技術スタッフもフリーランスが多く、長時間労働、低報酬、ハラスメント等の問題が指摘され、文化庁が対策に乗り出した。フリーランス仲間で労働組合を結成し、企業に処遇改善を求める運動も登場した。
偽装事例もみられる。フリーランスと称しているが、実際には企業の指揮命令下で働いているケースである。これでは実態は労働者と変わらず、労働関係法令の適用回避を狙った偽装と言われても仕方がない。言うまでもなく、指揮命令を前提にした就業であれば、労働契約を交わすのが本来である。
対策に乗り出した政府
“ギグワーカー”と呼ばれる就業者の存在も、フリーランスが強く意識されるようになった理由の一つである。これはネットを介して単発で仕事を請負う就業スタイルで、雇用形態もあるが、フリーランスで働く人が多い。コロナ禍で一躍有名になった料理宅配サービスが典型例である。欧州では、不安定な就業を問題視し、ギグワーカーを労働者として保護する動きが強まっている。
こうした事態に、政府もフリーランス対策に乗り出した。昨年、関係省庁(内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省)を横断する形で、就業保護に関するガイドラインが策定された。このガイドラインは、独占禁止法、下請法、労働関係法令の適用関係を整理、明確化し、法が禁止する「優越的地位の濫用」に当たる取引事例を明らかにした。また、トラブル防止のため、発注条件を書面でフリーランスに交付することを企業に求めた。
そして現在、“新しい資本主義”政策の一環として更なる対策が検討されている。「骨太の方針」(2022年6月)は、「事業者がフリーランスと取引する際の契約の明確化を図る法整備や相談体制の充実など、フリーランスが安心して働ける環境を整備する」との方針を示した。
来年度に予定される法整備に向けては、就業実態と課題の多様性を前提としつつも、より踏み込んだ対応を期待したい。例えば、従属的関係を生みやすい一定範囲のフリーランスに、労働関係法令を拡張適用することが検討されてよい。社会保険、労働保険の適用拡大も課題になり得る。また、相談体制の強化だけでなく、より強力で実効性のある支援、救済体制の整備も検討してもらいたい。
人口減少、デジタル社会の深化、ワークライフバランス意識の高まりなどを背景に、働き方の多様化は今後も進み、雇用労働から個人事業主への就業シフトは確実に進む。こうした“脱組織”の働き方の進展を見据えつつ、新たな対策を構想することが肝要である。法整備の行方に注目したい。
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金子順一(全国シルバー人材センター事業協会会長)
◇◇金子順一氏の掲載済コラム◇◇
◆「大幅な引上げが続く最低賃金 丁寧な決定プロセスが必要」【2021.11.9掲載】
◆「老いと向き合う就業のすすめ ~高齢期の働き方改革~」【2021.5.4掲載】
◆「アフターコロナの働き方と労働時間規制」【2020.10.13掲載】