三食治療付き光熱費込み
片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)
前回、「入院雑記」を投稿した。あれ以来、入院という非日常を考えることが多い。
日本はかつて、社会的入院が医療資源の浪費、医療費増加の元凶として指弾され、そのせいか、最近は入院の要否が厳格に判断されているようである。入院は歓迎されない傷病の結果であり、誰も喜んでする人はいないはずである。それなのに社会的入院が散見される背景として、退院後の世話をする人がいない、また、とりわけ北海道に関しては地元に医療機関がないなどが挙げられていた。
しかし、私は自らの経験から、上記理由だけではなく、入院の魅力(!?)が患者をして帰宅を渋らせるのではないかと、思うことしばしである。それはタイトルにあるとおり、入院生活はもれなく「三食治療付き光熱費込み」だからである。これに掃除、入浴介助、運が良ければ、看護師さんたちとの楽しい会話が付く。
このような高付加サービスであっても入院費用は高額療養費制度で抑えられ、さらに入院給付金付き保険に別途、加入していれば1日5000円などが支給され、出費を上回る入金を得る場合も少なくない。
周知のとおり、日本の医療機関のほとんどが民間立であり独立採算を求められ、収益確保が組織存立の前提である。そして、病床を有する医療機関は人員、設備への投資が莫大であるため、これを回収するのに病床数を増やし、回転率を上げる必要がある。その結果が人口当たり病床数が日本はOECD諸国中、1位という数字である。医療機関にとっても必要にして十分な入院期間「プラスα」はメリットなのであろう。このように、ある程度、長く入院することに関して患者と医療機関の利害が合致しているため、病床数多く、入院日数が幾分長い状況が変わらない。もっとも、イギリスでは、入院の必要のない患者の入院をベッドブロッキングといって、絶対撲滅の対象となっているのだけれども。
ところで、日医on-lineニュースも指摘するように(2021年4月5日付)、日本には高齢者のための長期居住施設が少なく、その代替として医療機関への入院が活用されている。2011年に導入されたサ高住はこの状況を打開するためのものであるが、まだまだ途半ばである。
病床数を用意した以上、入院患者を入れなければそれは不採算部門となるため、医療機関にとって入院患者の一定数確保は必須である。そして、そこで提供される三食治療付き光熱費込みの環境は患者の療養にとって不可欠であると同時に、心地よく去りがたい。こんな状態はけしからん、入院は最低限とすべしというなら、日本の医療体系、在宅での看護介護支援体制、良質かつ低廉な高齢者住宅の確保というグランドデザインが必要である。これらなくして、小手先の退院促進策だけ作っても、患者の心は「三食治療付き光熱費込み」から容易には離れない。
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)
◇◇片桐氏の掲載済コラム◇◇
◆「入院雑記」【2022.11.22掲載】
◆「クールビズvs ビジネスドレスコード」【2022.8.16掲載】
◆「消費行動は投票行動」【2022.5.2掲載】
◆「年賀状と夫婦別姓」【2022.1.18掲載】
☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。