年金と人生百年
中村十念 [(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
1.年金算式
公的年金の算式は概略次のように示される。年単位でイメージしてもらえば良い。
1人当たり年金受給額×受給者数≦年金保険料集金額+国庫負担額
右側が財源であり、左側が使途である。
算数的な観点からは年金保険料集金額が先駆けて増えて、後追いで資格的数が後追いで増加する流れが理想的である。
ところがこの流れが逆流している。
2.人生百年時代
きんさん、ぎんさんの頃は100歳迄生きる人は珍しかった。
ところが、今や100歳以上人口は9万人超えと推計されている(2022年9月時点)。
がんの5年生存率はどんどん延び、平均で62%である。種類によってはがんは死ぬ病気ではなくなった。健康意識の高まりは健康寿命の延長につながっている。
それらの相乗効果で平均寿命が急伸している。最近のデータでは平均寿命は女性87.57歳(2022年公表)、10年前より1.67歳延びた。平均寿命の延びは年金受給者数の増加に直結する。
IT長者の間では、不老長寿志向が高まっているという。バイオテクノロジーや遺伝子工学への投資意欲が高いらしい。この動きはアメリカの医療産業を通じて、世界的な平均寿命の延長に寄与すると考えられる。わが国も例外ではない。
一方で年金保険料は人口減、賃金減の世相の中で、伸びない。
算式上の必然で、1人当たり年金受給額を減らそうとする力が働くだろうが、これには限度がある。最低限の生活も営めないような年金額では、国際的にも面子がたたない。
3.消費税
保険料が頼りないとすれば消費税増税となろう。消費税は社会保険財源(等)として導入された。(他に流用されていないかどうかはわからない)
従って当然と言えば当然の選択である。
増税への一里塚としてインボイス制度が導入されるのであろう。
ところが消費税の本質は、「消費」税、つまり間接税ではない。付加価値が発生する各段階で課税される付加価値税である。
法人税は利益に対して課税されるが、消費税は付加価値(売上-仕入)に対して課税される。付加価値額を小さくすれば節税できるという理屈になる。
消費税の対象にならない大きな費目は人件費である。
この人件費を仕入価格化するには、正規社員を非正規化して業者扱いにして、業務委託料で払えば付加価値はへるという発想になる。
(派遣導入の時と同じようにこの流れを囃す向きもあるので要注意)
社会保障を支える建前の税が、日本の雇用環境を揺るがすという皮肉な結果を招かぬよう十分な留意が必要だ。
そのためには消費税を本来の間接税として扱えるよう法整備を進めるべきだ。
4.定年廃止
延び続ける平均寿命は、我が国の経済や文化、習慣などに大きな影響を与える。
とりわけ労働環境については早急な見直しが必要だ。
平均寿命100歳が普通になるとすれば、65歳で会社を定年退職すると最長35年も年金暮らしということになる。それは長すぎる。35年を二つに分けて、20年は年金暮らし、15年は年金保険料納め役となるよう再検討すべきではないだろうか。つまり定年は80歳、公的年金の支給開始も80歳である。定年も公的年金の受給開始年齢も自由選択とする手もある。
日本の人口減少の流れは待った無しであり、それに伴い人手不足はますます深刻化する。
一方で優秀で元気なシルバー世代の存在がある。
シルバー世代の活用は、年金財政にとっても経済成長にとっても、一挙両得である。
10年後には、女性の平均寿命は、90歳になる。余り時間はない。全体を俯瞰して知恵を絞って、社会構造の変革を考えるタイミングである。
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中村十念[(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
◇◇中村十念氏の掲載済コラム◇◇
◆「マイナ保険証とリスクマネジメント」【2023.7.4掲載】
◆「『マイナ保険証』は『現行保険証』との併用で」【2023.2.2掲載】
◆「法と医療のイノベーション」【2022.11.4掲載】
◆「日米半導体戦争」【2022.9.27掲載】
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