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先見創意の会

「人前であがらずに話す」

大橋照子 (NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー)

前回もこのコラムに書かせていただきましたが、私の「話し方教室」には真剣に、
「スピーチやプレゼンや発表を上手にしたい」と言われて来られる方が多いです。

そして、ほとんどの方が最初に言われるのが、
「緊張するんです。あがらずに落ち着いて話すにはどうしたらいいですか?」です。
――この質問に、ひと言で答えられたらどんなに簡単でしょう。そしたら、これで悩む人はすぐにいなくなるでしょう。

私自身、アナウンサーになる前から大変なあがり症でした。入社試験とかオーディションを受けるとなると、心臓はバクバク、目の焦点は定まらない、声はどこから出ているのか分からない状態になります。受ける前に、その様子を想像するだけで心臓が口から飛び出しそうになります。

でもその頃(40年以上も前)は、誰も「あがらない方法」を教えてくれませんでした。それを教えてくれる教室はなかったし、「パソコン検索」など夢のまた夢でした。
(ちなみに、「検索エンジン」のはしりは、1994年にスタンフォード大学の学者さんが開発した「Yahoo!」だそうです。日本ではやっと2000年頃から検索ができ始めたのでした)

誰にもあがらない方法を教えてもらえない。自分でどうあがいても、すぐには治らない。雑誌広告につられて「催眠術」の怪しげなところにも通いましたが無駄でした。
結局、自分の感情をコントロールするのは本当に難しいと知るばかりでした。

それでもプロになってからは、「あがるからうまくしゃべれない」などと生ぬるいことは言っていられません。何十年も経験を重ねていき人前での話を繰り返すうちに、自分なりに落ち着くためのすべが分かるようになってきました。

あがる理由はひとつではありません。また、その人によって別々の理由があります。それら各自の多くの理由を、ひとつずつ全部練習で解決していかねばなりません。

その練習法の基本的なところを書いてみましょう。
1、上半身の力を抜く。とにかく力を抜くことです。
――緊張すると上半身に力がガチガチに入っているので、心臓がバクバクし、喉が詰まり、頭も真っ白になります。ストンと力を抜きましょう。

2、呼吸は、お腹を膨らませて「腹式呼吸」で。
 ――腹式呼吸をすれば、上半身の力が抜けたままでいられます。声も、お腹から出るので、しっかりした良い声が出ます。

3、毎日の「発声練習」で、聞きやすく聞き心地の良い声をつくっておけば、本番でもその声が出て、安心です。
――「発声練習」については、このコラム・今年7月25日分に書かせていただきました。

4、「原稿」を作って、それを10回以上練習する。
――その場で考えながら話すプレッシャーが、緊張を10倍にします。原稿を書いて、それを10回~100回読んで、ほとんど見なくても言えるようになってから、本番に臨んでみてください。驚くほど落ち着いて本番ができます。

5、「イメージ・トレーニング」をする。
――練習のとき、目の前に当日の会場や聴衆を思い浮かべながら、毎日声を出して話してみてください。その怖さに打ち勝つと当日が楽です。

まず、5つ挙げてみました。これらを実践してみると、また次の課題が見えてきます。その課題をまた自分で克服していきます。
あがらずに話すのは、ほかのスポーツや芸術などと同じで、「鍛錬」が必要だということです。

皆様が、一層すばらしいスピーチをされることをお祈りしています。

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大橋照子(NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー)

◇◇大橋氏の掲載済コラム◇◇
「発声練習」【2023.7.25掲載】
「個人情報の推移」【2023.4.4掲載】
「飛行機で時空を飛び越えた日」【2022.11.29掲載】
返信について【2022.8.30掲載】
「人前で堂々と話す」ために【2022.3.8掲載】

2023.10.24