医療ドラマと現実 -絵になる救急医療-
片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)
医療ドラマの王道
アメリカの医療ドラマの大半は救急医療が舞台である。アメリカ救急医療ドラマの金字塔といえば「ER緊急救命室」である。1994年から2009年まで15年間、続いた大ヒット作である。最近では「シカゴ・メッド」が2015年の開始以来、今もシリーズが続いている。日本製ドラマにも救急医療系ドラマが少なくない。
他方、慢性期病院、回復期リハビリテーション病院が舞台になることは間違ってもない。なぜか? それは救急医療の現場はドラマチックであり、「絵になる」からである。これに対し、慢性期、回復期を対象とする病院は起伏の少ない日常が淡々と繰り返されるだけである。
そして、救急医療ドラマで神業のようなテクニックを駆使し患者を救う医師や看護師らを観て、彼らに憧れ、その職業に就きたいと思う子供たちがいる。「警察24時」などをタイトルとするドキュメンタリーなどは、弱きを助け強きを挫く実際の警察官が主人公である。これも少年少女に「おまわりさんになりたい」と思わせる。映像が職業選択に及ぼす影響は大きい。
医療ニーズの実態
しかし、実際の患者のほとんどは、救急医療室に担ぎ込まるのではなく、自らの足で病院を訪ねる。さらにその大半はいわゆるプライマリケアで完結し、切った張ったとは無縁である。とりわけ、高齢患者が多い今日、その傾向は強まる一方である。ところが、診療報酬が高く設定されていることもあり、急性期病院が需要より多い。そこで人的資源、財源の均衡配分を企図して2015年、地域医療構想なるものを政府が公表した。
構想実現まではまだ道半ばである。実現のためには関係部署等の強力なマネジメントが必要であると同時に、医師らを中心とする医療従事者の意識の転換も欠かせないだろう。病院の原点は野戦病院であると聞いたことがある。野戦病院は究極の救急医療の現場であり、ここが病院の原点なら、医師という職業DNAに救急医療が深く組み込まれているといってよいからである。
ドラマチックじゃないのがふつう
警察署がいつも2時間ドラマのような難事件の捜査をしているわけではない。平時の業務を淡々とこなし、市民生活の安全を守っている。病院、診療所も24時間、手術室が稼働することはなく、穏やかで流れ作業のような診療風景が続く。このような現実に必要なものは、神やダビンチの手ではない。それは誰が相手であれ、円満円滑にコミュニケーションがとれる、あるいは、ドラマチックではない状況下でも、知識と技術の研鑽に努める姿勢などであろう。これらを医学教育、看護教育の中で教え、伝えてほしい。それを学んだ医師らが多数を占めるようになれば、地域医療構想も成就するのではないか・・・・・。
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)
◇◇片桐氏の掲載済コラム◇◇
◆「リケ女獲得合戦」【2023.9.26】
◆「採用コスト」【2023.6.27掲載】
◆「三食治療付き光熱費込み」【2023.3.28掲載】
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