2024「骨太の方針」のもと、医療・介護の行方は?
岡光序治 (会社経営、元厚生省勤務)
この6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針、いわゆる「骨太の方針」を読まれたでしょうか?
病院や介護施設の運営に若干、関わっている“浅学菲才”の筆者にとって、医療・介護の行方について、述べられている内容からは具体的な中身や施策の優先順位がわからず、“謎解き”に困惑しています。
示された方針について、医療・介護に焦点を当てて、小生なりの理解のもと、該当部分を適宜引用し、“現場”的な対応策について個人的な意見を述べることにいたします。
・(第1章 2)豊かさと幸せを実感できる持続可能な経済社会に向けて(経済・財政・社会保障の持続可能性の確保)
経済・財政・社会保障を一体として相互に連携させながら改革を進め、経済社会の持続可能性を確保していく。
2030年代以降も、実質1%を上回る経済成長を実現するとともに、医療・介護給付費対GDP比の上昇基調に対する改革に取り組む。
・ビジョン達成に向けた政策アプローチ
金利のある世界に備え財政の信認を確保する。
社会保障を持続可能なものとするため、応能負担の徹底を通じて現役世代・高齢世代などの給付・負担構造を見直し、国民の安心につながる効率的で強靭な医療・介護の提供体制を実現するなど、全世代型社会保障制度の構築を進める。
・(第2章)賃上げの定着と所得と生産性の向上
・(第3章)中長期に持続可能な経済社会の実現「経済・財政新生計画」
・(第3章 3主要分野ごとの基本方針と重要課題)
(1) 全世代型社会保障の構築
医療・介護DX、ICT、ロボット、タクスシフト/シェア、全世代型リスキリング、ワイズスペンデング
(医療・介護サービスの提供体制等)
国民目線に立ったかかりつけ医機能、都道府県ガバナンスの強化、地域医療構想について2024年末までに結論を得る。
介護と医療機関の連携強化、介護サービス事業者のテクノロジーの活用や協働化・大規模化、経営状態の見える化、人材確保
医療費適正化の観点から審査強化、多剤重複投薬・重複検査の適正化、国民健康保険について都道府県内の保険料水準の統一、都道府県のガバナンスの強化
保健医療支出統計の整備
(令和7年度予算編成に向けた考え方)
持続的・構造的賃上げの実現、官民連携による投資の拡大、少子化対策・こども対策の強化、防衛力の強化
以上、関係部分を拾ってみました。「方針」のみでまるで、要求官庁が予算要求項目を落ちのないように、申し立てた感がします。
以下、医療・介護について、個人的な意見を述べます。
・賃金の引き上げ→この分野は人件費比率が50%をかなり超えているので、賃金引上げに伴う人件費上昇は経営の根幹に関わります。賃上げを促す「報酬」の引上げ分以外の必要経費は人件費以外の経費を節約・効率化して賄うしかないのです。→結局、配置基準に抵触しない範囲で配置人員を少なくする=人数制限により現場に負担がしわ寄せしますが、その負担軽減のためにDX、ロボット化を行うことになります。それ以外の手段としては、人件費以外の経費の節約・効率化を目指し、規模拡大ないし異種業種間の連携を行うことになります。
・DX、ロボット化→①少なくとも、ロボット化した分は「配置基準」に加算ないし人員相当分を置き換え計算される必要があります。②機械化に要する経費に対し、公的資金を導入するか、PFI方式のような制度=業者負担で機械化を実施し効率化による余剰資金で年次償還を許す制度=の導入が必要です。また、カルテの電子化、請求事務のDX化、医療統計の電子化などの事務経費は、審査支払手数料の単価を引き上げ、引き上げ分を基金にプールし、現場に還元するしかないと思います。
・連携・大規模化について、思い切った改革が避けられません。すなわち、医療提供体制の根本改革です。
① 自由開業医制の廃止。診療所は、開設に制限はつけませんが、公的制度の埒外に置き、自由診療とします。
② 病院を無床病院と有床病院に分離。(あ)無床病院は複数診療科を有し多業種からなる総合機能を有してかかりつけ医の機能を果たす。住民は、この病院に登録(都市、へき地を問わず、ネットでの対応を可能にする)。(い)有床病院は、1診療科30床以上からなり、100床以上の規模とする。受け入れ患者は、救急を除き、無床病院からの紹介患者に限定する。(う)所有・経営と診療を分離する。
○ 国民意識の変革
「方針」では、課題と解決ビジョンのため、地域において「議論」し、国民意識の変革やムーブメントを醸成し、一人一人が社会づくりにコミットして行動に移すことが重要、と言っています。
「議論」で国民意識を変革できると本気で考えているのだろうか?
社会連帯の意識を醸成するためには、すべく国民を対象に社会教育を徹底するしかありません。勇気をもって、教育改革を実践すべきです。
ポイントをいくつか述べます。
① 自立意識のもと一人一人がこの社会を構成している、という社会教育を実践する。
② 他人事でなく自分事として、お互い様の意識で、自分の住んでいる社会を「共有財産」と考え、自分のできる範囲で社会のためにできることを行うという意識を共有する。
③ 公的活動に対する報奨制度を作ってみる。ご苦労様です、というねぎらいの気持ちとできれば自分も参加・活動しよう、社会に恩返ししよう、という気持ちに繋がるような制度とする。
④ 全ての高校生への授業料が免除されてことを前提に、公の支援へのお返しとして、教科の中に一定時間の学外での社会奉仕活動を導入する。あわせ、育児休業制度同様、地域ボランティア活動休暇制度を創設し、会社員がSDGs活動を容易に行うことができるようにする。
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岡光序治(会社経営、元厚生省勤務)
◇◇岡光序治氏の掲載済コラム◇◇
◆「おひさまネット」―地域の高齢者を見守り、支え合う組織【2024.4.30掲載】
◆「どうする地域社会福祉?」【2024.1.16掲載】
◆「「孤独死防止策に関する提案」【2023.10.3掲載】
◆「どうする地域社会福祉?」【2023.7.11掲載】
☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。