「聞き取りやすく話す」
大橋照子 (NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表
・フリーアナウンサー)
日常生活の中で、「聞き間違え」はしばしばありますね。
番組あてにもいろいろな、笑える失敗談が届きます。
・東京の地下鉄で、丸の内線の駅がどうしても「香港三丁目」に聞こえます。――「本郷三丁目」なんですね。
・母のことなんですが、病院に連れて行ったときに「次はMRIだよ」と言ったら、「イモ洗い?」と聞き返されて大笑いしました。
・最近よく駅にある「多機能トイレ」は、「滝のおトイレ」に聞こえますよね。
・ラーメン屋さんで「豚骨ラーメン」を頼んでいる人、「ポンコツ・ラーメン」に聞こえませんか?
・家内が急に「福岡に行こう」というので、何事かと思ったら、「服を買いに行こう」だった。
・小池・東京・栃木… 地名を並べたのかと思ったら、「小池東京都知事」だった。
・手術室では病棟から看護師さんが来るのを待っているのですが、麻酔から覚めたばかりの患者さんは「お迎え来ましたよ」を聞いてびっくりしたとよく言われました。
・都知事選で、「小池都知事が公約発表した」というのを、「小池都知事が婚約発表した」と聞こえてびっくりしました。
・テレビのニュースで、「4~6月期は経済成長が5期ぶりにマイナスです」といっていたのを、「ゴキブリ」と聞き間違えた。
・NHKの朝ドラ「虎に翼」、すごく面白くて楽しみに見ているんだけど、最初に流れる米津玄師さんの主題歌が何を言っているのかがよく分りません。最後のところ、何度聞いても「つよがらば体育会」としか聞こえないんだけど、――「さよーならまたいつか」と言ってるらしい。
これは別の人からは、「さようなら、また、あいつか」と聞こえると投稿がありました。
こんな聞き間違いは笑えて面白いのですが、耳の遠い方と話していて「え?」と何度も聞き返されると、ついイラついてしまう場合があるようです。
知り合いのお医者様は、お年寄りから何度も聞き返されるのがイヤで、首から拡声器をぶら下げているそうです。拡声器を持って、
「これで話しましょうか?」
というと、大体聞き返されなくなるということですが…大丈夫でしょうか。
かく言う私も、最近聞き返すことが多くなってきました。耳が遠くなってきているのも事実ですが、特に家族の言葉がです。外でほかの人に向かって話す言葉はしっかり聞こえるのに、家で私に言う言葉は本当に聞き取りにくいです。
私たちは、同じようにしゃべっているつもりでも、家で家族に向かうと「気を抜いてダラけたしゃべり方」になるようです。それはリラックスして家族には気を遣わないので、キッチリ話そうとはしないからだと思います。
「気を抜いてダラけたしゃべり方」とは、口をほとんど開けず、唇を動かさないしゃべり方。いわゆるモゴモゴしゃべりです。これが聞き取りにくい言葉になります。
テレビでドラマを見ていて、セリフを聞き取りにくいことがあります。俳優さん自体がそんなしゃべり方をするのか、役作りでそうしているのか色々なケースがあると思いますが。大切なキーワードになる言葉が聞き取れなくて、そのあとの筋が分からなくなることもあり、最近はドラマには字幕を入れて見ています。
(こうすると、役の名前が漢字で出るのでとても分かりやすいです。特に「光る君へ」)
それに比べて、ニュースを読んでいるアナウンサーの言葉は、大声を出しているわけでもないのに、くっきりと聞こえるでしょう。口を開け、その音ひとつひとつを正確に発音しているから、そして「伝えたい」という気持ちを言葉に乗せて話しているからです。
試しに、次の1)と2)をなさってみてください。
1)唇をほとんど動かさずに力なく「おはようございます」と言ってみましょう。これが、一番聞き返される話し方です。家族に向かって話すとき、こうなりがちです。
2)次に、口をできるだけ大きく開けて、心を込めて「おはようございます」と言ってみてください。
2)の方が、くっきりとして艶やかで明るい声になっているでしょう? これで話せば、「え?」と聞き返されることが、ぐんと減ります。
私の「話し方教室」では、皆さんにまず「口を開けること」をお願いしています。
口を開けて話すと、良いことが3つあります。
・はっきり話せる
・笑顔になる
・早口で話せない
日本語は特に、口を動かさずに話せてしまう言語です。唇や舌を大きく動かさずに「五十音」が発声できるからです。英語だとそうはいきません。
どうぞこれからも、口を大きく動かして、「聞いてほしい」という気持ちを込めてお話しくださるよう、お願いいたします。
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大橋照子(NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー)
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◆「相手の立場に立つ」【2024.1.30掲載】
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