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「100年後の日本人1500万人」という衝撃

河合雅司 (ジャーナリスト、人口減少対策総合研究所 理事長)

東京一極集中は人口減少の要因と言えるのか。全国知事会において東京都の小池百合子知事が「因果関係は不明確」と疑問を投げかけ、地方の知事たちが反発するという一幕があった。

どちらの言い分が正しいのか。日本全体として捉えれば、外国人の少ない日本のような国では、人口減少は死亡数より出生数が少ない「自然減少」によって起きる。東京一極集中とは地域偏在の「結果」に過ぎず、それ自体が人口を減らす要因ではない。

しかしながら、都道府県レベルで捉えると、東京への人口流出は地域の人口を減らす大きな要因である。地方の知事たちはこれを問題としているのだ。

小池都知事と地方の知事たちとでは人口減少の捉え方が異なっており、議論が噛み合っていないのである。

もし東京一極集中が是正されたならば、都道府県レベルでは一時的に減少が緩和する程度の効果はあるだろう。だが、人口減少の原因ではない以上、根本的な問題は何も解決しない。働き手不足と内需の縮小は止められず、日本は衰退の道を進んで行くこととなる。

日本人の減少は政府の想定より遥かに速いスピードで進んでいる。一番分かりやすいのが出生数だ。2023年は過去最低の72万7277人を記録したが、24年は70万人台を割り込みそうな勢いだ。

日本人の出生数が最後に100万人台を記録したのは15年で、わずか8年で27・7%も少なくなった。その最大の理由は出産期の女性が激減したことだ。
出産した日本人女性の年齢を調べてみると9割弱が25~39歳である。この年齢の女性数について15年と23年とを比較すると23年が14%ほど少なくなっている。要するに「母親不足」が起きているのだ。これに未婚率の上昇や子どもを持たないカップルの増加といった付随的要素が加わって出生数減に拍車がかかっているのである。

19年~23年の年間出生数の対前年下落率を平均すると「マイナス4・54%」である。これに対して、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「出生中位。・死亡中位推計」(最も現実的な予測)は1年あたりの下落率を0・7%として計算している。実績値は推計より6・5倍のスピードで進んでいるということだ。

この差は日本の未来にどう影響するのだろうか。詳細については私の新刊『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』(小学館新書)に詳しいので是非お読み頂きたいが、仮にこの「マイナス4・54%」のペースが続いたとして機械的に計算してみると、40年の出生数は約33万人、70年には約8万2000人にまで減る。2120年は何と8000人ほどまで落ち込む。

それは日本人人口の減り方を一段と激しくするということでもある。社人研の「出生中位・死亡中位推計」は70年の日本人人口を7761万人、2120年は4123万人と予測しているが、出生数「マイナス4・54%」を基にした粗い試算では、45年までに1億人を割り込み、70年に6220万人と現状のほぼ半数となる。2120年には1500万人ほどの「小国」と変り果てる。実際はここまで酷い数字にならないかもしれないが、とても「2024年の社会」が続くとは思えない。

政府はこうした不都合な現実から目をそらし続けている。岸田文雄首相に至っては「若年人口が急激に減少する30年代に入るまでが、少子化トレンドを反転できるラストチャンス」と、夢物語のようなことを口にしている。

不都合な現実を受け入れられないのは、政治家たちに「縮小を前提とするのは敗北主義」という強い思いがあるためだ。「社会を発展させることを語らなければ当選できない」との危機感である。

政治家がこうした姿勢をとっている以上、官僚たちは口をつぐむしかない。事実に反して、人口減少の影響は矮小化されていく。

こうなると、政策立案は捻じ曲げられる。その典型例が公的年金だ。年金財政を取り巻く環境の悪化は誰の目にも明らかなのに、政府内には「公式に『破綻の懸念がある』などと認めてしまえば、社会は大混乱に陥る」との思いが強く、これまで財政検証のたびに経済成長率や将来人口推計を甘い見通しを用意し、これらの数字を駆使して帳尻合わせを繰り返してきた。

今年公表された最新の財政検証は、過去の帳尻合わせと比べてもかなり強引な印象だ。出生数は30年代初頭までほぼ横ばいをたどることとし、40年まで外国人人口が16万4000人ずつ増加するという前提を置いた社人研の〝現実離れ〟した将来人口推計などを使って計算したのである。

だが、こうした欺瞞に満ちた前提条件をもって「年金財政は健全」と言われても、国民が信用するはずがない。かえって年金不信を高める結果を招いている。

人口減少の影響が軽微であるかのようにふるまう政府の姿勢は、年金に限ったことではない。都市政策や交通政策、地方政策などにも社人研の甘い見立てに基づく将来人口推計が都合よく利用されている。各省庁は甘い将来像をもとに「現状」の延長線でものごとを発想し、政策を展開しているのだ。こんなことを繰り返していたのでは、状況は悪化するばかりだ。

もはや日本は、人口が激減することを前提とせざるを得ない状況に追い込まれている。今後われわれは、年を追うごとに「日本崩壊」の姿を各所で目の当たりにするだろう。「現状維持バイアス」からの一刻も早く脱却し、社会を根底から作り替えるための作業を急がなければ、日本は瓦解の道を歩み始めることとなる。

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河合雅司(ジャーナリスト、人口減少対策総合研究所 理事長)

◇◇河合雅司氏の掲載済コラム◇◇
「高齢者が減っても医療・介護費は伸び続ける」【2024.5.14掲載】
「人口減少を見込んだ医療機関経営を」【2024.2.6掲載】
「経済成長なくして社会保障なし」【2023.11.21掲載】
「無医地区の解決には『集住』が必要だ」【2023.8.15掲載】

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2024.08.20