性善説で儲ける機能性表示食品
楢原多計志 (福祉ジャーナリスト)
「結局、ツケを払わされるのは患者とわれわれ医療機関という仕組みだ」。9月1日から機能性表示食品制度が一部改正され、製造・販売する事業者に健康被害の報告などが義務付けられた。だが、評判が悪い。制度の廃止を訴える声もあるが…。
2兆円目指す
「散歩や立ち上がりが楽になります」「脂肪の吸収をおだやかにします」━。コンビニやドラッグストアなどで売られている多種多様な機能性表示食品。カラフルな包装、巧みな宣伝文句が消費者の購買意欲を刺激する。
機能性表示食品が制度化されたのは、安倍晋三政権下の2015年9月。健康増進策の一環だった。10年足らずで、製造・販売事業者数は約1700に増え、商品数は7000品目を超え、市場規模は4000億円に急拡大。業界内では「総売上高2兆円も夢ではない」の声が上がっている。
回復しない被害者も
ここにきて消費者庁が機能性表示食品の製造・販売の規制強化に踏み切った。理由は小林薬品の紅麹の成分を含むサプリメント食品による健康被害が社会問題化(紅麹サプリ健康被害)が発生し、対応を迫られているためだ。
小林製薬によると、8月25日時点、摂取した利用者延べ492人が入院(複数回入院者含む)し、死亡との関連性が疑われている人が118人いるという。同社は販売を中止し、紅麹関連事業からの全面撤退を発表した
日本腎臓学会のアンケート(対象・患者206人)では、8割余で腎機能の低下(尿細管の異常など)がみられ、回復が望めない患者もいるという。
国立医療品食品衛生研究所などは、製造工場などで食品に混入した青カビが機能性成分を変質させ、腎臓にダメージを与えたのではないかと推定している。
15日ルール
消費者庁は7月、諮問機関の答申を受けて「食品表示基準」(内閣府令)を改正し、事業者に「健康被害情報把握・報告」と「GMP(適正製造規範)に沿って安全で適正な製造管理」を法的に義務付けた。ともに9月1日施行、健康被害情報報告は施行日から、GMPは2年間の経過措置を設定して06年9月1日から実施するとした。
「健康被害情報把握・報告」では、事業者は自社製品によって健康被害が発生したら、因果関係にかかわらず、速やかに保健所などに報告しなければならない。具体的には、同じ所見が短期間に2件以上起きた場合や、医師に「重篤に症例だ」と判断された患者が1人でも出た場合、事業者は事実を把握してから15日以内に保健所などに報告しなければならなくなった。
小林製薬の紅麹サプリ健康被害問題のケースでは、被害を把握してから公表まで2カ月以上もかかった。15日ルール導入は遅れによる被害の拡大を防ぐ狙いがある。これらに違反すると、営業の停止など行政処分の対象となる。
性善説で製造販売
「機能性表示食品制度の廃止や健康被害補償証制度の導入を含めた抜本的解決が必要だ」。主婦連合会(主婦連)は消費者庁に提出した意見者で「事業者への配慮が随所にみられ、消費者の権利を守るべく消費者庁が打ち出すものとして決して十分とは言えない」と皮肉を交えて批判した。
機能性表示食品に対する批判や不安が絶えないが、とりわけ強く批判されているのが、記機能性に関わる科学的根拠の曖昧さ。医薬品や特定保健用食品(トクホ)と違い、国の審査が義務になっていない。当事者である事業者が科学的根拠を示すデータや論文などを添えて提出すれば、基本的には製造・販売できる仕組み(届け出制)になっている。
事業者の中には、販売に機能性を疑うようなデータや論文を排除し、都合のよいところを根拠として新製品として売り出す事業者もいる。また研究開発にかかわるコスト削減を優先する事業者も少なくないという。
消費者庁の担当職員は「機能性表示食品は事業者の良心、つまり『性善説』に立って売られている食品だと考えている」と言い切った。
東京都内で胃腸科クリニック経営者は「科学的根拠の証明は国や第三者機関がやるべきで当事者任せではまずい。被害情報を届け出たりするだけでは問題は解決しない。このままでは消費者と治療の受け皿にツケが回る。機能性表示食品制度を廃止してトクホに1本化すべきだ」と指摘した。
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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)
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