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先見創意の会

裁判と経営の関係

中村十念 [(株)日本医療総合研究所 取締役社長]

1.コンサルタントをめぐる争奪戦(引き抜き)が起こり訴訟になった。訴えたのはA社(大手コンサル会社)、訴えられたのはBさん(前にA社の執行役員)。
A社のコンサルをBさんが引き抜いたというのが訴因。

2.争点はBさんがA社在職時の規程に辞職後の社員引き抜き禁止のルールが存在したかというもの。一審ではA社はあったとし、Bさんは捏造だと主張したが、A社の勝ち。Bさんの賠償額は1億2,000万円。

3.二審ではある憲法学者から出された意見書により大きな転機が訪れる。
その意見とは「電磁的記録一般の改変が容易である以上、裁判所としては、その証明力に一定の疑いを抱ける審理に臨むことが求められる。オリジナルが作成された時点から退職日までのサーバー上のアクセス、修正記録及びログ情報も開示されるべき」というものであった。この意見書の提出を受けて裁判は一転して和解決着となった。

4.この訴訟が社会にもたらした価値は何だったのだろうか。
次のようなことが考えられる。
➀電磁証拠は簡単に改ざんや捏造されることを周知せしめた。
➁冤罪被害者が容易に発生し得ることを周知せしめた。
③データの非改変性の証明技術の枠組み開発の必要性を認識せしめた。
➃特定重要情報や特定重要物質を扱う人や企業には、特に非改変性の担保が求められることを明示した。
いずれもこれからのデジタル社会にとって非常に大きな価値創造になった。
デジタル化、AI化によって、医療の進歩を図ろうとするエネルギーは止められない。その進歩と進歩がもたらす被害の抑制のバランスを図るルール化が早急に検討される必要がある。

訴訟で勝った極意は「裁判は経営でできている」という気づきにあるのかもしれない。

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中村十念[(株)日本医療総合研究所 取締役社長]

◇◇中村十念氏の掲載済コラム◇◇
「経営者保証の最小化と経営改革」【2024.9.12掲載】
「働き方改革の時代 -労働契約法に注意!ー」【2024.6.25掲載】
「SNSにだまされない法理論の確立を」【2024.4.11掲載】
「2024年高まる医の法的リスク」【2024.1.11掲載】

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2024.10.15