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先見創意の会

いろいろ健康法がいいわけ

岡部紳一 アニコム損保 監査役・博士[工学]

だれも健康にいいことをなにかやっている。毎朝の散歩や、フィットネス・ジムに通ったり、休肝日を設けたり、ダイエットに取組んだり、それぞれに目指していることがあろう。私は毎朝ヨガで軽く汗をかいて、1日をスタートする。これでシャッキとする。もうすぐ19周年を迎える月2回のヨガの会を主宰しているが、健康意識の高い人たちが参加してくれる。それぞれに健康法の考えがあり、なかなか興味深い。

熱心に参加してくれるある女性メンバーは、開催案内メールに丁寧に出席の返信メールをくれるが、目ヨガをやってほしいといつもリクエストがある。リクエストは大歓迎。目ヨガといっても、目のぐるぐる回しなど簡単な体操で、ポール・マッカートニーもやっているそうだ。これをやったあとに目がクリアに見えるというメンバーもいる。彼女は目を心配しているので、やり方も簡単なので毎日自宅でもやったらいいですよと何回も勧めているが、自宅ではやりませんと頑固にいつも答える。目が心配なら、どうしてやらないだろうかとやや不思議だが、そのように決意しているようだ。彼女の健康法は、「月1健康法」だ。月1回の効果しか期待できないが、本人は気にしていない風である。

ヨガやピラティスが女性に人気のようだが、教室などに通って教えてもらうものと思っている人も多い。私たちの会のメンバーでも自宅でヨガをやっている人は少数派だ。自分ではやるものではないと決めているのを、「人まかせ健康法」と言っている。この健康法でも、その日の効果は実感でき、満足感は得られる。

ストレートに症状を訴えて来るメンバーもいる。肩が凝りすぎて痛い、頭痛がする、膝や腰が痛いなどの訴えが多い。慢性化して変形性関節症となると生活習慣病だ。ヨガ講師は医師でも理学療法士でもないので、ヨガで治療してはならないという守るべきルールがある。ヨガポーズをやって固まった筋肉をストレッチしてほぐし、血行を良くして体温も上がってくると、ヨガの効果を実感できる。私たちの会は会費も徴収しない自由な会で、メンバーには、施設利用料の割り勘分(いつも300円)だけを負担してもらっている。マッサージ・整体・指圧に通えば、1回5000円以上はかかるだろうから、お得な代替法といえる。痛みがないと参加しない人たちなので、「痛止め健康法」と名付けている。肩コリや膝痛をヨガで予防しましょうと言っても響かない。

私たちのやっているいろいろな健康法は、どれだけの効果があるのか?この評価はなかなか難しい。常識的には、毎年健康診断を受けて気になる検査数値の推移に注目することだろう。数値が改善されてくれば健康効果が出ているといえる。健診で長らく脂肪肝と診断されていたが、肝硬変になってしまった豪傑の知人がいる。「けんしん虫健康法」だ。
政府の調査(注1)によると、約6割の人が元気・健康だと思っている一方で、約6割の人が健康に不安を持っている。日本人の死因の第1位はがんだ。一生のうちでがんにかかるのは、男性は半分、女性は⅓だそうだ。

では、がんを予防するにはなにをすればいいのかと自問自答しても、すぐには頭に浮かばない。いろいろな健康サイト読むと、がんの好む環境は「酸性体質に、低酸素、低体温、高血糖」と解説している。これらの反対をして、がんを遠ざける体内環境が作れるだろうか。運動して酸素を多く取り込み、全身の血液循環を良くして酸素を体の隅々に届け、体温を上げて免疫力を高め、糖分を控え、野菜果物をもっと食べてなど、いろいろとやるべきことが出てくる。

日本人のためのがん予防の科学的な研究もある。国立がん研究センターが「科学的根拠に基づくがん予防(小冊子)を公表している。(注2) 日本人10万人以上を20年以上の長期間追跡したコホート研究に基づいている。なかなか説得力があり、見方によっては怖い内容である。生活習慣に関わる主な危険因子について、いろいろな部位でのガン発生リスクが増加する可能性が4段階〜「確実に増加」、「ほぼ確実」、「増加の可能性あり」「データ不十分」〜で評価されている(注3)。

がん発生リスクの上位3つは、①喫煙、②飲酒、③肥満である。1位の喫煙は、15のがんのうち、「確実に増加」するのが、肺・肝・胃など10のがん、「ほぼ確実」と「増加の可能性あり」がそれぞれ1つで、計12のがんが挙げられている。肺がんだけでなく、全身に及んでいる。肺がんと診断されてから、禁煙をした人がいる知人がいるが、これは「あとから健康法」だ。2位の飲酒は、肝・大腸など4つのがんで「確実の増加」させる。3位は肥満(BMI 30以上)だ。「確実に増加」は肝、乳(閉経後)、「ほぼ確実」が大腸となっている。肥満の3位は意外だった。肥満ががんを引き寄せることを知っている人はどれだけいるだろうか。

数ヶ月前に読んだ健康書に、「動物性脂肪への依存はヘロインよりも強い」との記述されていた(注4)。 動物性脂肪は主に肉食で摂取されるので、肉食好きが動物性脂肪への依存に繋がることを示唆している。この動物性脂肪=肉食の依存性はほとんど知られていないだろう。

上記の3つの危険因子は、いずれも依存症と関係があることに気付いた。依存症は、対象物質の摂取により、脳の幸せホルモンのドパーミンを分泌する報酬系が乗っ取られてしまい、自分の意識でコントロールできなくなってしまい怖い状態に陥ってしまう。

以上からみると、素人のやや雑な見方になるが、がんを遠ざけるのは生活習慣病と戦うことと言えるようだ。
生活習慣病で最も多いのが、高血圧症だ。40-60歳で男性60%、女性40%を占める国民病といわれている。確かに、私の周りも降圧剤を飲んでいる方が多いように思う。高血圧の治療は、生活習慣の改善と投薬がセットと説明されている。原因となった悪い生活習慣を改めないで、降圧剤にだけたよると、アクセルを踏みながらブレーキも踏む「両踏み健康法」となる。レーサーが、エンジン回転数を落とさずに高速でカーブを曲がる「ヒール&トウ」テクニックとおなじだ。老化で血圧調整の機能が徐々に低下していくことを考えると、アクセルを踏み続けると、ますます危ない健康ドライブとなっ
てしまう。道路から飛び出してしまわないことを願うばかりだ。

さらに、慈恵医大横山教授は、「生活習慣病は老化と説く。」(以下部分抜粋)
「生活習慣病は、『病気』というより、『老化』・・・体の機能が衰える、つまり老化することによって、生活習慣病が発症する。・・・生活習慣病の薬は、衰えた体の機能を回復させたり、老化を止めたりすることはできない。だから、薬を飲んでも根本的には「治らない。」素人の私はなるほどと頷いてしまう(注5)。

生活習慣病の予防は、中年になった40歳以上がターゲットで、メタボ健診も開始される。生活習慣病の兆候が出始める年代だ。40歳以上で、メタボが強く疑われる/または可能性のある人が、男性の約半分、女性が2割らしい(注6)。しかし、よく考えると、メタボ健診で、生活習慣病の兆候が発見されるのは、すでに悪い生活習慣を持ってからだ。40歳からでは遅すぎるのではないか。生活習慣を付けてしまう前の若い人たち、言い換えると、小中学生を対象に、成人してから健康を維持するため、生活習慣病にならない習慣作りの重要性を教えるべきと思う。保健体育の科目から、健康の科目を括り出し、体育とは別科目で教えるべきではないだろうか。

あまり悲観的にならずに、最もポピュラーな健康法も紹介したい。健康が話題になると、ウォーキングしている、ジムに通っている、ピラティスを習ってるなどとそれぞれのアピールが始まる。 さらに、どの程度やっているの?と聞くと、時々休みながらの週1回から、月1〜2回の人もいる。自分ではやや運動量が足りないなと内心感じながら、仕事が忙しくてなかなか時間がとれないと言い訳の弁が出てくる。「いいわけ健康法」だ。

ウォーキングは毎日継続している人が多いようだ。運動の効果がせいぜい翌日までのようだ。体の健康を保ち、関節など運動機能を維持するためには、毎日 7000〜8000歩のウォーキング程度の運動量が必要だと思う。実は、「いいわけ健康法」もいい面がある。やや運動が足りないと感じる内面の健康不安ストレスを一時的に解消してくれる。運動しないよりはましだと自分を納得させ、 一時的なこころの安心を回復できる。ストレス解消は健康法で最優先だろう。

【参考文献】
(注1) 令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
(注2)科学的根拠に基づくがん予防 (ganjoho.jp)
(注3) がんのリスク 予防要因 評価一覧( Ver.20230821)
(注4) 奥田昌子著 「日本人の遺伝子 BLUE BACKS 講談社 2022」
(注5) 「高血圧に糖尿病…生活習慣病は「薬に頼らずに治せる」第一人者が語る」(現代ビジネスオンライン)
(注6) メタボリックシンドローム・結果の概要(厚生労働省)

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岡部 紳一[アニコム損保 監査役・博士(工学)]

◇◇岡部紳一氏の掲載済コラム◇◇
「コンプラ・ミルフィーユ」【2024.8.15掲載】
◆「あなたは海坊主が見えますか?」【2024.3.7掲載】
◆「殿様とガバナンス」【2023.11.9掲載】

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2024.10.22