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先見創意の会

医療法人の解散と医療機関の廃止手続き

竹原将人 (税理士)

1.はじめに

昨今医療機関の倒産が増加している。新型コロナウイルスの影響に伴う特例融資がなくなりまたはその返済がはじまり、資金繰りに窮する医療機関が出てきたことが一因と考えられるほか、診療報酬改定等の外部環境も決して良好とは言い難いことも挙げられる。また、経営は順調でも後継者不在の医療機関も存在している。そのような中で、今後戦略的な事業撤退を検討すべき場面も想定される。そこで本稿では、医療法人の解散と医療機関の廃止に係る主な手続きついて解説する。

2.解説

(1)手続きの概要
手続きは医療法人の解散手続き(法人格の廃止)と医療機関の廃止手続き(事業の廃止)に大別される。

医療法人は、一定の事由に基づいて都道府県等に対して解散の認可申請をし、許可が出て初めて解散できる(一部例外あり)。解散認可には、都道府県等が医療審議会に諮る必要があるため、スケジュールの確認が重要となる。

医療機関の廃止の手続きは、保健所に対する医療機関の廃止届と厚生局に対する保険医療機関の廃止届が必要となる。届出のため解散認可申請と異なり、廃止後に保健所等に書類を提出する形になることから、事前の認可は不要である。

(2)医療法人の解散手続き(法人格の廃止)
①都道府県への解散認可申請
ア 解散事由と手続き種別
医療法人の解散は下表の事由に基づき解散できるが、一定の場合は前述の認可によらず届出だけで解散することができる。なお、自主的に医療法人を解散する場合は、原則「社員総会の決議」により解散することになるため、認可が必要となる。

【解散事由と手続き】

イ 解散認可申請のスケジュール
解散認可申請を行う場合、医療審議会に諮る関係で、申請のタイミングが都道府県によって定められている。医療審議会は通常年2回開催されるが、医療審議会よりも前に申請は締め切られるため注意が必要である。

参考に東京都の解散認可申請スケジュールを以下に記載する。

【令和6年度:東京都医療法人解散申請スケジュール】

②解散登記と法人税申告
解散認可後、医療法人は解散の事実を登記するが、医療法人は解散後に清算事務に入るため、解散後も当面の間医療法人は存続することになる。また、解散に伴い税務上の事業年度は以下の通り変更となるため、それまでとは異なるスケジュールで法人税等の申告が必要となる。

【解散後の税務上の事業年度】

③残余財産の取り扱いと役員退職金
ア 持分あり医療法人
持分あり医療法人が解散した場合、清算事業年度において、金融機関借入金や仕入債務の弁済を行い、その後に残った財産(残余財産)を出資者に出資割合に応じて分配する。

ただ、解散に伴い役員は退任することになり、役員退職金を支給することができるため、出資者が役員を兼ねている場合、実務上役員退職金で受け取るか残余財産の分配で受け取るか、どちらが有利かで判断することとなる。なお、この場合、役員退職金の金額が過大であるとして医療法で禁止されている配当類似行為に該当しないかに注意が必要である。

【役員退職金と残余財産の分配の課税関係】

イ 持分なし医療法人
持分なし医療法人が解散する場合も、清算事業年度において、金融機関借入金や仕入債務の弁済を行うが、出資者は存在しないため、定款の規定に従い残余財産は国や地方公共団体等に帰属することとなる。
一方、持分なし医療法人においても役員の退任は当然起こるため役員退職金の支給は可能であるが、この場合も役員退職金の金額が配当類似行為に該当しないかに注意が必要である。

(3)医療機関の廃止手続き(事業の廃止)

①保健所と厚生局への届出
前述の医療法人の解散手続きはあくまで法人格の消滅手続きであり、法人格の中に存在する医療機関の廃止には、別途保健所や厚生局に主に以下の書類を提出することとなる。また、廃止のタイミングは、必ずしも解散申請のタイミングに縛られることはないため、その医療機関の運営状況に応じて適宜決定することになる。

【主な提出書類】

②医療機器の廃棄等及び従業員の解雇
廃止した医療機関で使用されていた医療機器は廃棄または売却されることとなる。一定の医療機器については、事前に製造販売業者に通知を行い、指示事項を遵守する等法律に基づいた適正な処理を行わなければならない。

また、従業員との雇用契約が消滅することから、労働契約法と労働基準法の規定により、解雇の30日前までに解雇通知を行わなければならない。解雇通知がない場合、解雇予告手当を支払う必要がある。

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竹原将人(税理士)

◇◇竹原将人氏の掲載済コラム◇◇
「持分なし医療法人への移行に伴う論点」【2024.7.9掲載】
「令和6年度税制改正」【2024.4.9掲載】
◆「医療法人の経営情報開示【2023.10.31掲載】」
◆「医療法人の合併」【2023.8.1掲載】

☞さらに以前の記事はこちらからご覧ください。

2024.10.29