年齢のこと
大橋照子 (NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表
・フリーアナウンサー)
先日、同年代の知り合いと話していた時、年齢の話になりました。
「私たちが新入社員で入社したころは、55歳定年でしたよね」
何気なく言った言葉に、自分でビックリしました。
そうでした、55歳で当然のように先輩は退職していきました。”定年延長”なんて良い話はなかったです。今考えると、ずいぶん若くして社会を卒業していったのですね。
思い起こせば、20年くらい前までの新聞記事ではこんな言葉が使われていました。
「20日未明、○○市の国道で、65歳の老人が倒れているのを通行人が発見」
「○○市の民家で保護されたのは、63歳の老女」
60歳を過ぎると、”老人”や”老女”で当然のようにくくられてしまうのでした。
現在は、マスコミ上では「90歳の男性」とか、「高齢者が~~」などと表現されています。どこで誰が決めているのか分かりませんが、増え続けている”高齢者”に配慮して下さっているのでしょう。また、パワハラ、セクハラ、モラハラへの対応でもあるでしょう。
しかし、75歳から「後期高齢者」と言われるのは、なんとも失礼な気がします。別の表現はないのでしょうか。
時代をさかのぼれば、平均寿命も短くなり、活躍する年代が若くなります。
平安時代、紫式部は「源氏物語」を書き始めたのが30歳ころ。そして40歳で亡くなったようです。(990年生誕~1031年に没?)
そして清少納言は、「枕草子」を書き始めた年齢は不明ですが、60歳で亡くなったそうです。(966年頃生誕、1025年に没)
江戸時代、宮本武蔵と佐々木小次郎が、巌流島で戦った1612年(慶長17年)。決闘に敗れて死去した佐々木小次郎の年齢は、18歳だったと「二天記」に記されています。そのとき宮本武蔵は29歳だったそうで、そんなに若かったのかと驚きます。
(講談では、当時の小次郎は白髪頭の70歳の老人だったという講釈もあるようですが)
奈良時代以降、早い時は11歳で元服して大人になるのだから、18歳、29歳はもう立派な成人だったのですね。そして60代で亡くなってしまう。
最近お亡くなりになった西田敏行さんも76歳、大山のぶ代さんも90歳だったことを思うと、改めて寿命が延びたことを実感します。
そういえば、私が40歳になったときに、文京区から封書が届きました。
「『老人健康法』に基づき、40歳から無料健康診断を受けられます」
「え~~、『老人』? 失礼だなあ、絶対に受けるもんか!」と思ったものでした。
さすがにこの「老人健康法」も改訂されましたね。「老人保健制度」は、2008年4月に「後期高齢者医療制度」が創設されたことによって、廃止されました。
でも、新しい名前が「後期高齢者」か…。
なんとか早く、「後期高齢者」とか「お年寄り」に代わる、良い言葉を作って頂けないものでしょうか。
私…、その世界が目の前に迫っているのです…。
ーー
大橋照子(NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー)
◇◇大橋氏の掲載済コラム◇◇
◆「聞き取りやすく話す」【2024.8.13掲載】
◆「ラジオ番組の同窓会」【2024.4.23掲載】
◆「相手の立場に立つ」【2024.1.30掲載】
◆「人前であがらずに話す」【2023.10.24掲載】
☞それ以前のコラムはこちらからご覧下さい。