経営の眼で政府予算を視る
中村十念 [(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
1.2025年度政府予算のひとつの見方
2025年度の政府予算が示された。珍しくもないが、赤字予算である。
経費に約116兆円を要するとされている。政府の売上に相当する税収等は約87兆円である。売上は支出の75%しかない。不足前の29兆円は借金(国債)であり、その額は経費の25%に当たる。
政府予算は固定費的なものと変動費的なものに分けられるようである。
固定的部分は政府の維持費用である。社会保障費、特別公務員を含む国家公務員の人件費、自治体への補助金、政府財産の保全費、国債の金利等の金融費用である。固定費的なものの合計は偶然であろうが、税収額とほぼ一致する。政府政策を具体化する事業費や企画費・補助金等が変動費部分である。約30兆円ある。
2.資本について
経営の視点で見ると、予算の資本の部も気になる。ここはメディアもなかなか取り上げないので余り知られていない。少ない情報ではあるが、政府の借金累計(国債残高)は1000兆円を超えているということがある。国民にとっては、とてつもない巨額に見える。一方で、個人の金融資産は2000兆円を超えているので、これを担保と見なせば、しばらくは大丈夫だという声もある。(担保とみなせるかどうかは真偽不明である。)
現時点での税収と借入金の比率は13倍を超えている。また税収とGDPの比は15%程度である。財政的には限界に近づいているような気がする。
3.税収の公式
政府財政は生半可ではない税収不足状況である。不安定で見通しの悪い世界情勢の中で、誰にとっても財政危機は好ましいことではない。
予算委員会での真剣な議論を望みたい。
ところで大雑把な話ではあるが、「税収=所得額×税率」で示すことができる。
税率が変わらなければ、税収と所得額は比例する。(さまざまな壁論議は所得額を増大させるので、方向としては正しい政策である。)
所得増なき税収増はあり得ないことと考えるべきである。
4.経済成長による税収増
このタイミングでの日本の税収増は必須である。税収増と経済成長はイコールである。税収増は同一税率のもとでは所得増に比例する。所得増は経済成長によって実現される。
経済成長はGDPによって測られる。人類の歴史を見ると、GDPは自然にも成長するものらしいが、政府の政策によって加速化が可能である。しかし急ぐ余り、ハイリスク・ハイリターン政策には捉われてはならない。急がば回れ、ローリスク・ハイリターン政策を探求すべきである。
以下のような方策が考えられる。
(1) 3年ほどかけてGDPの目標を800兆円程度にする。
そうすると、年間の税額は120兆円程度になり、2025年度の政府支出額116兆円とバランスする。
(2) 最低賃金を時給を3年のうちに全国平均で600円程度上昇させる。
日本の最低賃金は国際比較でも決して高くない。逆に低すぎるために経済成長が疎外されている面がある。
(3) 現在10兆円程度のインバウンド需要を3年のうちに30兆円まで引き上げる。
訪日客の増加と1人当たり需要増を図る。1人当たり需要増には、飲食物(特に日本酒)との横展開を図る。
(4) 社会の階層化や多様化に合わせた商品化を図る。
例えば医療についていえば、保険診療で培われた総合力を基盤にしつつ、混合診療や自由診療の商品化を進めるなどのことである。
経営の視点で言えば、財政基盤の確立は、政府の生き残りの戦略の一丁目一番地である。
固定的経費の議論に目を奪われがちであるが、変動的経費の議論が重要である。
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中村十念[(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
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