空手とスピーチ
大橋照子 (NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表
・フリーアナウンサー)
空手を習っている。
空手は昇段するたびに帯の色が変わる。空手の会派や流派によって帯の種類は全く違うようだ。
私は数年前から始めて、最初の白帯から → オレンジ帯 → 青帯 → 赤帯 → 緑帯 → 紫帯と進み、この2月に茶色帯に昇段した。やはり帯の色が変わると嬉しくて志気盛んになる。
あとは、ついに最後の黒帯を目指すことになるが、茶帯から黒帯は今までより道は遠く、ここから1年はかかる。
「なぜ、空手を始めたのですか?」
とよく聞かれる。兄が40年間空手をしていて、多分そのせいでゴルフがやたらにうまい。年齢が70代後半になるのに、今でもドライバーの飛距離は落ちないし、クラブ杯で優勝を争っているらしい。私もゴルフをもっとうまくなりたいと思っていて、ゴルフレッスンを40年以上取り続けているけれど、年齢が増えるにつれて飛距離は落ちるし、スコアも悪くなってきている。空手をすればゴルフもうまくなるのではと思って、兄に倣って遅まきながら空手を始めたわけだ。
確かに、空手とゴルフは体の動きが似ている。まず下半身をしっかり構えるのが基本だ。空手の基本の立ち方は「三戦立ち(さんちんだち)」と言って、腰を落としてひざを曲げ、右足を少し前に出し、両足のつま先を内股にする。この姿勢はどこから押されても崩れない。
そして「正拳」を突き出すとき、落とした腰をグイ!と回すと力強い突きができる。そして突き出す腕を内側に同じくグイ!と回す。ゴルフのスイングの、腰や腕の動きに共通するところがある。
ゴルフの上達にはつながっているのかは不明だが、飛距離がほんの少しだけ伸びたような気がする。
そして面白いことに、空手は、私の専門である「スピーチ」や「発声」にも共通するところがある。
呼吸はどちらも「腹式呼吸」だ。空手の基本稽古で、突きや蹴りを数十回ずつ繰り返すと、息が上がってハアハアしてくる。そのとき、師範の「深呼吸!」の声で両手を広げて深呼吸すると、不思議にさっと呼吸が収まる。そしてすぐに次の技にいける。
スピーチやプレゼンで人前に立った時も、緊張して心臓がドキドキしたり呼吸が早くなったりする。この時も、まず「深呼吸」だ。話し始める前に必ず「深呼吸」をする。するとすぅーっと落ち着いて、心臓も呼吸も楽になる。
そして「声」だ。空手では、大きな声で挨拶「オッス!」(もとは海軍で使っている挨拶で「おはようございます!」を縮めたものだそうだ)と言う。技の基本稽古では、大きな声で「えい!」「えい!」と言う。声が大きい方が強そうに見えるし、自然に力も入る。
スピーチやプレゼンでも、「大きな声」が基本だ。小さい声だと力強さや責任感が感じられず、しっかり伝わる話ができない。聞く人の理解力も小さくなる。ただし、大きな”がなり声”でいいかというとそうではない。聞き心地の良い、理解しやすい、温かみのある声に磨き上げる必要がある。
ただ、スピーチの「立ち方」だけは、空手やゴルフは同じというわけにいかない。人前で腰を落として膝を曲げて…というわけにはいかない。スピーチの基本は、膝を延ばしていかにスッときれいに立つかだ。
何事も、ひとつのことを極めるには、何十年やっても足りることはない。
とりあえず今続けているのは、「発声練習」と「腕立て伏せ、1日30回」だ。
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大橋照子(NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー)
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◆「年齢のこと」【2024.11.6掲載】
◆「聞き取りやすく話す」【2024.8.13掲載】
◆「ラジオ番組の同窓会」【2024.4.23掲載】
◆「相手の立場に立つ」【2024.1.30掲載】
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