年金改革で氷河期世代救済?本気か 「参院選に不利」と与党尻込み
楢原多計志 (福祉ジャーナリスト)
年金制度改革関連法案の今国会への提出が先送りされる見通しだ。いわゆる「就職氷河期世代(氷河期世代)」の救済が柱の1つだが、自民党内から「法案をいま提出すれば、国民から増税(保険料負担増)と受け取られ、今夏の参院選に不利になる」との声が強くなっているためだという。オイオイ、それって、まさに党利党略じゃないか。
▽「ボコボコにされる」
3月初旬、自民党の幹部会議で小野寺五典政調会長らから「参院選でボコボコにされる」「大敗北が目に見えている」などと法案提出の見送りを求め意見が続出したという。おかしな話だ。政府は年金制度改革関連法案の国会提出について首相自らが質疑に参画する「重要広範議案」に指定したはず。いまになって、与党が見送りに走るとは。法案のどこが問題なのか。
厚生労働省の審議会を経てまとめられた法案のポイントは①基礎年金を底上げする②在職老齢年金制度の見直す③厚生年金の標準報酬月額上限を引き上げる④年収の壁を解消するの4点。
ざっと説明すると、①基礎年金の底上げに必要な財源(135兆円)を確保するため厚生年金の積立金の一部(65兆円)を基礎年金に回す。問題は国庫負担の70兆円だ。年間2.6兆円(消費税1%に相当)の追加拠出が必要になる。それで自民党内から「増税」の声が上がってくる。
②65歳以上で賃金と年金の合計が月額50万円の限度額を超えると年金が減額される在職老齢年金制度を見直し、限度額を62万円または71万円に引き上げるか、在職老齢年金制度そのものを廃止する。
③厚生年金保険料は月収65万円以上の人が支払っている月額6万5000円の最高限度額を引き上げる。
④厚生年金の加入が事業者に義務付けられている要件のうち「従業員51人以上の企業」と「年収106万円以上」を撤廃し、「週20時間以上勤務」だけを残す。これで厚生年金加入者が約200万人増えるという。
個人的な感想だが、法案の最重要ポイントは①の基礎年金を底上と思う。いまの基礎年金をどうにかしないと、経済格差がさらに拡大し、近い将来、貧困の高齢者世帯(年金生活世帯)が激増しまうからだ。
基礎年金の抱える最大の問題はそもそも給付水準が低すぎることだ。2025年度をみると、満額(40年間保険料納付)でも給付額は年額83万1696円。月6万9308円で生活費の全てを賄うのは難しい。サラリーマンの厚生年金や公務員などの共済年金にはく基礎年金に老齢年金が上乗せされるが、非正規雇用者や自営業の国民年金の場合、基礎年金のみとなり、預貯金の取り崩しや投資の配当などに頼らざるを得ない。
国民年金加入者の中で、バブル崩壊後、就職難に見舞われた「氷河期世代」(内閣府の定義は1974~83年生まれ)の年金が大きな問題になっている。厚生年金の適用されない事業所などでアルバイトなどの非正規の形で働き続けて老後を迎えると、基礎年金しか受給できない。国民年金に未納期間があれば、減額される。相応の貯金や相続資産がなければ、たちまち貧困に陥ってしまう。
「基礎年金の給付水準を大幅に引き上げないと、経済成長ゼロの状態が続くと、氷河期世代の3、4割が生活保護世帯になる恐れがある」との厳しい指摘もある。
▽「100年安心年金」は幻か?
今の年金制度は2004年の年金制度改正(04年改正)がベースになっている。年金財源不足を解消するため約20年間にわたって給付を減額する一方、保険料率を引き上げることにした。その手段として導入したのが「マクロ経済スライド」と名付けられた、年金を自動的に毎年0.9%程度ずつ減額するシステムだ。労働団体の役員は「年金カットシステム」と揶揄している。
しかし、毎年実施するはずだったが、実際には6回にとどまっている。景気回復とデフレ脱却ができなかった上、与党の思惑が重なって発動できなかった。
5年後の09年改正では、基礎年金への国庫負担割合を「3分の1」から「2分の1」に引き下げ、基礎年金の財源の安定化を目指した。保険料収入だけでは財源を賄えないので税金を増やした。自民、公明党の与党は一連の取り組みによって「100年安心年金になる」と自画自賛していた。
今回の法案は「100年安心年金」がどうも幻に終わることを暗示している。20年経っても基礎年金の財源が一向に安定しない。そこで氷河期世代の救済を表向きの理由にして、厚生年金の積立金を流用することで穴埋めし、制度設計のミスに対する批判をかわそうと思えてならない。
氷河期世代の救済と支援は確かに必要だが、それは、彼らが現役のいま、正規社員化や教育・子育て支援などの様々な事業で行うのが筋ではないか。老後の暮らしを心配するくらいなら、いますぐもっと支援すべきだ。
本来、年金の積立金は将来の給付不足を防ぐために年金制度ごとに積み立てられている。厚生年金と別建ての国民年金に厚生年金の積立金が使われることに対し、厚生年金の加入者や受給者はどう思うだろうか。年金不安をあおることにならないだろうか。
願うことは、「公的年金の在り方」を国会議論だ。満額でも生活できない基礎年金の給付額はどうなのか、再設計が必要ではないか。また、5年ごとに行われ、制度改正のベースになる年金当局の財政検証は実際とのギャップが大きすぎる。特に実質賃金の見通しの甘さは目を覆いたくなる。
政治記者に聞いたところ、どうやら自民党は法案を廃案にする気はなく、参院選後、追加提出するよう政府に働き掛けるとか。参院選後なら年金議論は秋の臨時国会以降になる。高額療養費制度の上限見直し問題もそうだが、意義や是非を議論することなく、政局を優先して国会の議論から逃げるような姿勢は与党として、どうなのか。
ーー
楢原多計志(福祉ジャーナリスト)
◇◇楢原多計志氏の掲載済コラム◇◇
◆「“直美”の増加、どうする」【2024.12.14掲載】
◆「性善説で儲ける機能性表示食品」【2024.9.17掲載】
◆「抗菌薬不足」【2024.6.18掲載】
☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。