オンライン授業と遠距離通学
片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)
かつての大学生
私の大学時代、クラスのおそらく6割程度は遠方の出身で、大学近辺に1人で暮らしていた。自炊する者、賄付きの下宿に暮らす者、寮に入る者など、居住形態は様々である。彼らは大学まで、徒歩か自転車で来る。健康にもお財布にも良い環境である。もっとも、大学と住まいが近いので、昼ご飯を食べに一度、帰る、そして、そのまま戻ってこないということがしばしばあり、近すぎるのもどうかといわれる例の1つである。
今の大学生
今、自宅から大学へ通う学生が増えている。これは道内外、国公私立、いずれの大学も似たような傾向である。原因として、親の資力と、高校生たちの「家を出たい!」という意欲、この2つの低下などがあげられる。では、皆、大学近郊に住んでいるかというと決してそうではない。むしろ、かつてに比べると遠距離通学の学生が大幅に増えた。片道1時間以上、かけて大学へ通うのは、いまや普通である。おそらく、現在の高校生の大学選択基準に、「何としても自宅から通えること」というのが、かなり高い優先順位におかれているはずである。
北海道の冬は寒く、雪深い。公共交通機関の遅れは日常茶飯事であり、吹雪で運休も珍しくない。そうなると、冬期間は遅刻しないようにと余裕をもって、さらに早く家を出なければならない。早起きして大学に到着、教室内は暖房がきいて暖かい。睡魔に負けた学生があそこにも、ここにもが冬期間1講目の教室風景である。
オンライン授業の開始
新型コロナウイルス感染防止のため、日本全国の大学がオンライン授業を手探りながら始め、今学期も同授業を多くの大学が継続中である。ディスプレイ越しの授業に学生が失望し、うんざりし、嫌気がさしているかと思いきや、本学のアンケートによれば、オンライン授業支持、不支持はほぼ半々である。
学生たちに聞くと、オンライン授業ならば、大学まで行かなくてよいので通学時間と交通費の節約になるという。つまり、朝はゆっくり寝ていることができて、好きな時間に自由なスタイルで授業を聞くことができるのは大歓迎とのことである。そんな風にして授業を聞いて、単位が取れるなら、学生がオンライン授業を支持するのは当然であろう。
恐れているのは、近い将来、オンライン授業をやめて、対面授業を開始しようとしたとき、「新型コロナウイルス感染が恐ろしいから大学へ行きたくない」というセリフを吐かれた時である。感染者を出したという誹りを避けたい大学当局を黙らせる最強のセリフである。これを言う学生に大学に来させる言葉で切り返せるよう、私たちも理論武装しなければならない。学生に言い負かされるようなら、おしまいである。
付記)上記「感染者を出した」は日本語として正しくない。正しくは「感染者が出た」である。感染者を能動的に出せるものではない。換言すれば、感染はだれの責めにも帰すことのできない現象である。だからこそ、感染者を責めるのはお門違いも甚だしい。
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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)
◇◇片桐由喜氏の掲載済コラム◇◇
◆「オンライン授業強行記」【2020年6月23日掲載】
◆「雪あかりの路に思う」【2020年2月25日掲載】
◆「予備校今昔」【2019年11月5日掲載】
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