コロナデータの草の根観察術
中村十念 [(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
1.致死率
連日膨大に吐き出されるコロナデータを、一般市民が読み解くのは簡単ではない。私は致死率に絞って注目し、その数値を追いかけるのを日課にしている。
致死率には、死亡者数を感染者数で割って百分比で表した数値を使用している。死亡者数や感染者数は、連日新聞で報道されるデータである。クルーズ船分は除いている。
生と死の分岐を追うことが、発生事象の全体像を探る想像力の刺激剤になるのではないかと考え、ターゲットデータを致死率とした。
2.致死率の時間的推移
2021年1月15日は2020年1月16日にコロナ1号患者が発生してからちょうど一年である。そこから3.5ヶ月を遡った2020年9月30日以降の致死率の推移は、表1の通りである。
この表から、次のことが観察される。
➀時間の経過とともに致死率は下がる傾向にある。3.5ヶ月間で0.49%の減少。
➁12月末には、上昇への転換のきざしを見せたが、1月に入ってから持ち直し、2週間で急速に下がった。
➂致死率の減少の原因は、経験の積み重ねによる医療現場の治療等のスキルの向上にあると思われるが、科学的評価は今後の研究にまたれる。
➃2020年9月30日と2021年1月15日の比較では、延死亡者数は2.8倍、延感染者数は3.8倍である。
3.致死率の空間的分布
(1)全都道府県の致死率
1月15日現在の全都道府県の致死率を降順に並べたのが表2である。
表1と表2では集計時間の関係で、全国の数字に若干の相違がある。
この表から次のことが観察される。
➀分布の幅は、0%から5.51%とかなり大きい。
➁国全体の平均致死率1.39%を上回る道府県は17(全体の36.2%)、下回る都府県
は30(63.8%)。
➂1月17日現在の緊急事態宣言地域のうち目を引くのは致死率0.56%の栃木県である。致死率の面からは慌てることもないと思われるが、将来に備えての先手必勝の考えであろう。
(2)外国との比較
諸外国の致死率の降順はわかっている範囲で次の通りである。
この表から次のことが観察される。
➀日本の致死率1.39%は欧米諸国より低水準である。
➁2021年1月17日の報道によると2020年9月末と2021年1月15日との比較では、世界全体の延死亡者数は2倍、延感染者数は3.1倍であるとのこと。この比率は、両方とも日本が世界全体を上まわっている。
4.コロナの全体像への気づき
致死率の観点から、日本のコロナ事象に関する私が得た感想は次の通りである。
(1)コロナウイルスは、インフルエンザと違って、年中無休で活動する。
(2)死亡者数はインフルエンザよりも年間3~4割多い。
(3)国際的に見ると、我が国の人口あたり死亡者数・死亡率は欧米各国より低い。
(4)2019年の日本全体の死亡者数は、国民の行動変容効果が他の疾患に波及し、前年を下回る可能性がある。
(5)無症状感染者の存在が、「他人に迷惑をかけなきゃ自由」という考え方を揺るがしている。つまり他人への迷惑を自己管理できないという思想変容をもたらした。
(6)空間的なアウトカムの差は歴然と存在するが、その因果関係あるいは相関関係は未解明である。解明に科学者の活躍が期待される。
幸いなことに、日本にとってコロナ禍の悪影響は相対的に小さい。個人にとって感染するかしないかは、結果的に五分五分。これはどこにいても同じである。「運×(掛ける)免疫力」を信じて、不安感に耐えていかなければならないのは万人共通である。
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中村十念((株)日本医療総合研究所 取締役社長)
◇◇中村十念氏の掲載済コラム◇◇
◆「コロナ禍から誰が医療の場を守るのか」【2020年4月7日掲載】
◆「『情報主権』は誰のものか」【2020年3月3日掲載】
◆「一億総ポイント社会」【2019年10月29日掲載】
☞それ以前のコラムはこちらから