中国政府によるウイグル人女性への性暴力問題を取り上げよ
榊原智 (産経新聞 論説委員長)
女性蔑視と受け取られる発言をしたと批判が高まったことを受け、森喜朗元首相が東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を辞任した。
発言は新型コロナウイルス禍で開催が危ぶまれている東京五輪・パラリンピックにとってタイミングが悪すぎた。求められていない内容の発言をして批判を招いた。
ただ、擁護するつもりはないが、森氏は発言の翌日に撤回して謝罪している。ところがその後も世間は森氏を責め続けたのには違和感を覚えた。まるで断罪する調子で、現代日本人の狭量さを示したように思われる。「水に落ちた犬」のようになった森氏を叩き続けることがうれしかったのだろうか。
菅義偉首相は8日の衆議院予算委員会で、立憲民主党議員から森氏の発言について問われ、「国益にとって芳しいものではない」と答弁した。菅首相は聞かれたから答えることになったのだろう。
森氏を指弾し続けた日本のありさまが内外に伝えられ続けたほうがわが国の印象を損ない、よほど国益に反したのではないかと思う。
もちろん女性差別はあってはならないことだ。
それだけに、森氏の発言に怒りの声をあげた意識の高い人々に関心を寄せ、行動してほしいことがある。それは中国の新疆ウイグル自治区における、女性に対する性暴力という深刻な問題の解決に、少なくとも森氏批判と同じ熱量をもって取り組むことである。
英BBC放送は、ウイグル人を収容した同自治区の「再教育施設」で、収容中の女性らに性的暴行や虐待、拷問が行われていたと報じた。組織的にレイプ被害があったとのウイグル人女性の証言つきだ。中国共産党政権は否定しているが、米英両国の政府などは懸念を表明した。アダムズ英外務閣外相は、「悪魔の所業」が明らかになったとして、国際的な調査の必要性を強調した。
中国共産党政権は、ウイグル人約100万人を拘束し、裁判を経ずに「職業訓練センター」と称する強制収容所に送っている。性暴力はウイグル人弾圧の非道さを改めて物語るものではないだろうか。
現在進行形の性暴力の問題が指摘されている。森氏の発言を難じた人々はその憤りを、中国共産党政権による性暴力の問題にも向けてほしい。
ウイグル人への人権弾圧を問題視する自民党の議員連盟が、超党派へ改組されることが決まったのはよかった。この議連はもちろんのこと、どの国会議員は衆参両院でこの問題を積極的に取り上げるべきだ。日本政府は被害者から証言をとるなど独自の調査を進め、中国共産党政権に弾圧中止を迫ってもらいたい。言論人やメディアもこの問題に取り組んでほしい。森氏を非難して、中国共産党政権の女性への人権侵害にだんまりを決め込むなら内弁慶に過ぎ、恥ずかしいことではないか。
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榊原 智 (産経新聞 論説副委員長)
◇◇榊原智氏の掲載済コラム◇◇
◆「日米豪印(クアッド)は台湾と協力を」【2020年11月10日掲載】
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