経営者保証の最小化と経営改革
中村十念 [日本医療総合研究所 取締役社長]
1.債務保証
債務保証とは、法律用語であり、主債務者が債務を履行しない場合に代理弁済する旨の契約のことを言う。
保証契約には2種類がある。
ひとつは通常保証であり、これには抗弁権が認められている。抗弁権とは、まずは債権者に請求しろ、との主張ができる権利である。
もう一つは、連帯保証である。連帯保証は債務者と同じ義務を負い、抗弁権はない。主債務者より先に請求されても文句は言えない。
中小企業では、これまで幅広く経営者個人が企業の連帯保証人となり、債務の借入れを行ってきた。この仕組みを経営者保証という。連帯保証であるので、財務事故が起きると経営者は大変厳しい状況に追い込まれる。現金どころか家、財産まで持っていかれることも珍しくない。
2.流れの変化
しかしここに至って、経営に失敗すればホームレス、という制度慣習に疑問の声が上がってきた。
金融庁自らが経営者保証改革プログラムを立ち上げ、個人連帯保証に依存しない融資慣行を確立しようとしている動きのことである。
まずは金融機関に対する監督の強化が行われている。何を強化するかというと金融機関が保証契約についての説明責任を果たしているかどうかの見張りである。(ただし今のところ努力義務に止まっているところが残念である)
金融機関は中小企業に対して、次の三条件が整っていれば、経営者保証は必要ないことを説明しなければならない。
一つ目は、法人・個人の一体性の解消である。
つまり、事業会計と家計を分離し、どんぶり勘定をやめて透明化を図れ、という訳である。これは当然のことである。
二つ目は、財政基盤の強化である。
これは結構むつかしい。現在キャッシュフローが豊かであれば、誰も借り入れなどしないからである。
内部キャッシュフローが厳しいので、その補充のために外部キャッシュフロー(借入れ)の活用を考える。借入れは将来の内部キャッシュフローの増加で返していこうという目論見だ。財務基盤の強化とは、将来のキャッシュフローの生み出し策の実現性・妥当性が問われるということであろう。
三つ目は財務状況の適時適切な情報開示である。これはむつかしくない。まずは気の利いた税理士に月次決算システムを提供してもらうことである。毎月の決算資料を継続的に金融機関に提出すれば良い。
3.過去の契約解除も可能
つまり、以上3条件が整えば、新規借入の経営者保証は必要なくなるということである。ということは、過去につけていた経営者保証契約の解除の可能性も出て来るということである。
信用保証協会も金融庁と同じ方向で動いている。
融資が経営者保証なしで行わるなら、信用保証協会も無保証となる。また各銀行がホームページで金融円滑化の取組方針などと称して、積極広報しているので参考になる。
4.経営に家族を巻き込むな
経営者はいつまでも経営者でいる訳ではない。
当たり前に、退任したり、辞任したり、承継したりする。経営者が経営者でなくなったときには(それが作為的なものでない限り)それまで契約していた経営者保証は解除されるべきである。経営者でもないのに、経営者保証というのもおかしい。
金融庁の示す経営者保証改革プログラムは、それを可能としている。
事業会計と家計は切り離されて当然である。それは収入面だけでなく、経営債務の弁済についても切り離されるべきである。
大企業ではそれが当然となっている。中小企業経営を含めた経営全般がそうなるよう、経営者保証改革プログラムは大切な一歩である。
以上は医業経営の分野でも同じである。
資金が行き詰ってみると経営者保証の動きにようやく気付くという人も多い。あるいは、知らぬ間に経営者保証をとられているケースである。経営と法は、表裏一体であることの認識が必要かもしれぬ。
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中村十念[(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
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