自由な立場で意見表明を
先見創意の会

トップもハラハラ落し穴

岡部紳一 [アニコム損保 監査役・博士(工学)]

はじめに

毎年年末になると、その年のニュースランキングがメディアに取り上げられる。月刊『広報会議』が1000人に聞いた「2024年 イメージが悪化した不祥事ランキング」を発表している。(※注1) 一位は、小林製薬の紅麹による健康被害事件である。この件では、「危機管理としての初動の遅さ、その後の広報対応の拙さなどで批判が目立ち」、当局に対する対応に重きが置かれ、消費者の健康を守る視点が希薄であると批判されている。140年続いた創業家の会長と社長が辞任し、創業家以外から社長が就任した。

ちなみに、前年2023年の1位はビッグモータの保険金不正請求事件である。ビッグモータの事件でも創業者(親子)トップのワンマン経営が大きな要因で、内部統制体制の不備やコンプライアンス意識の欠如が指摘されている。(特別調査委員会からの報告)

この二つのケースでも、事件の要因として、ワンマン経営によるガバナンス機能不全が指摘されている。

二度あることは三度ある

トップによるハラスメント事件で驚かされたのは、石油元売り最大手で名門のエネオスグループのトップ(子会社会長を含む)が3年連続で辞任・解任したことである。社外での宴席、懇親会でのトップ自ら行ったセクハラ行為によって、22年8月グループ会長が辞任、23年12月後任のグループ会長を解任、そして24年2月グループ子会社会長の解任と続いていた。最初のトップ辞任の後で、役員ハラスメント研修の充実や役員処分規定の厳格化など再発防止策が実施されたようであるが、その陣頭指揮者である後任の会長もセクハラ行為で解任される事態となったのである。同社の記者会見では、「幹部の意識改革が不十分だった。2度も続けてこういう不祥事が起きるとは青天の霹靂だ」と述べられ、この年度(2024年度3月期)の有価証券報告書には2年連続で経営トップが「エネオスグループ理念」に反する不適切な行為に及んだことは痛恨の極みであります。」との記述がみられる。同グループのコンプラ体制において、トップは対象外であったようである 。

蚊帳の外

今年はまだ3月であるが、2025年の企業不祥事ランキング1位が予想できる。昨年末から大々的に報道され、世間の関心を引き付けている中居・フジTV騒動である。大物タレントの女性トラブル事件から、フジTVの会長・社長が辞任に追い込まれ、スポンサー離れから、屋台骨を揺るがす事態となっている。前代未聞の10時間に及ぶ生中継の記者会見において、社長本人から「ガバナンス不全」であったことを認める発言があった。私が注目したのはコンプライアンス部門の担当役員であるE副会長の発言である。同会長は、大物タレントの女性トラブル事件を、年末になって取材に来た文春記者から知らされたという。問題の事件は2023年6月と報道され、フジTV社内でも社長を含め一部の人には報告されていたようだが、責任部署であるコンプライアンス部門は蚊帳の外だった。蚊帳の外の落とし穴である。

企業の内部統制として、コンプライアンス体制を考えると、法令や規則を順守させる対象は社員全員となっているはずであるが、内部統制・コンプライアンスを推進する指揮者は組織のピラミッドの頂点にいる経営者であるので、実質的に対象外となっている。コーポレートガバナンスの観点からは、取締役/取締役会及び株主/株主総会取締役会に監視する義務があるが、経営者に対して日常的なチェックは困難である。

法律の想定外

民間企業に限らず、地方自治体の首長によるハラスメント事件も相次いでいると報道されている。その代表例は、兵庫県知事のハラスメント疑惑であろう。斎藤知事はパワハラ疑いの告発問題で県議会から不信任議決を受けたが、議会を解散せず失職し、出直し選挙に再出馬して再当選を果し、大方の予想と異なる展開となった。その間も、県議会の百条委員会は審議を継続し、今月報告書が公表され、「同知事の言動についてパワハラ行為と言っても過言ではない不適切なものだった」と認定した。

本件に限らず、自治体の市長・町長や議員によるパワハラ、セクハラは多く報道されている。昨年の関連記事を検索してみると、3月岐阜県岐南町長99件の市職員へのセクハラ行為で辞職、4月岐阜県池田町長が職員15人へのセクハラで辞任、4月福島県白河市の市議会議員の職員へのストーカー行為、セクハラで辞職勧告決議、5月愛知県東郷町長がセクハラ行為を認定され辞職、6月福岡県宮若市長の8件のハラスメント行為を百条委員会が認定、辞職勧告したが辞職せず、11月沖縄県南城市長の専属運転者への強制わいせつ疑惑で書類送検などである。長期間に行為が継続されていたり、被害者が多数であったり、かなり深刻なケースもみられる。

その対策として、セクハラ防止条例を策定する自治体が増えている。先例となった狛江市(H30)、川越市(H31)のように実際のハラスメント事件が発生し、その対応としてハラスメント条例が定められた。地方自治研究機構によると、R7年1月15日現在96条例が制定されていると報告している(※注2)。住民の選挙でえらばれる市長や議員は、公務員の特別職として一般職員に対する法律規則は適用されない。この条例を制定することで、特別職の首長などに対しても抑制効果が期待されるとしている。自治体のピラミッドの頂点で自治体を指揮命令する首長のハラスメントは、法律の想定外であった。想定外の落とし穴である。

お殿様か王様か

冒頭で、2024年の不祥事ランキング一位の小林製薬と、前年一位のビッグモータを取り上げたが、いずれもワンマン経営体質が内部統制の不備、ガバナンス欠如などにつながったことにも言及した。あるコンサルティング会社が解説している「ワンマン社長の10個の特徴」(注3)が興味深い。その上位5項目を挙げると以下の通りである。①パワハラ気質ですぐに怒鳴ったり暴言を言う、②社員の話を聞かない、③自分の考えが全て正しいと思っている、④ 自分の好き嫌いで評価や人事を決定する、➄感情のコントロールができない (⑥₋➉は略)

このような社長の強力な権限をバックにしたワンマン経営では、トップに異を唱える人は遠ざけられ、イエスマンが周りを固めることになる。時代劇で必ず登場するお殿様と忠誠心の高い家来を連想させる。お殿様の暴走を阻むには、お目付役の大久保彦左衛門か、切腹覚悟で諫言する忠臣が必要であろう。前出の岐阜県池田町長は、「独りよがりの“裸の王様だった」と辞任にあたって発言しているが、自治体の首長も、企業のトップのハラスメントでも、行為者であるトップがハラスメント行為をおこなっているとの認識がないケースがすくない。このぐらいは許されると自己判断に縛られ、他人の視点が欠如している。

封建時代から現代に移ると、国家のシステムは三権分立の相互牽制関係をベースに築かれている。企業の法的構造を規定する会社法も、取締役(社長を含め)を監視する権限が規定され、株主・株主総会と監査役(会)がその監視の役割を負わせる牽制関係がベースにある。とはいえ、上述したようなトップの日常業務活動や、社外での宴席などにおけるハラスメント行為を、これらの組織システムが常に監視できない。

垂れる稲穂

トップのハラスメントに対して、どうすればいいのだろうか?
まず第一歩は、蚊帳の外や想定外の落とし穴の落ち込まないように、組織の持つ牽制関係を十分に機能させることである。しかし、パワハラ気質のトップには、組織的な縛りが有効ではないかもしれない。浮かんできたのが、「実るほど首を垂れる稲穂かな」。松下幸之助の経営手法でも述べられているようだ。精神論ではなく、トップに位置するものは、謙虚に自分を見つめる、客観的に自分の言動を評価する。蚊帳の外にいないか、周りを見回し、自分から蚊帳の中に入っていく謙虚さが求められる。トップの資質をして求められる。パワハラ気質の社長に任せざるを得ない事情もあるかもしれない。その際は、組織への悪影響のリスクをよく認識しておくことが必要であろう。

[脚注]
(注1)「2024年 イメージが悪化した不祥事ランキング」(月間『広報会議』)
(注2)「首長等や議員によるハラスメントに関する条例」(一般社団法人地方自治研究機構)
(注3)「【ついていけない】ワンマン社長の10個の特徴と7つの対策を解説!」(識学総研)

ーー
岡部 紳一[アニコム損保 監査役・博士(工学)]

◇◇岡部紳一氏の掲載済コラム◇◇
「いろいろ健康法がいいわけ」【2024.10.22掲載】
「コンプラ・ミルフィーユ」【2024.8.15掲載】
◆「あなたは海坊主が見えますか?」【2024.3.7掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。

2025.03.20