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“将来”の感染症パンデミック対策 – 第8次医療計画や感染症計画の見直しに活かすコロナの教訓-

王子野麻代・清水麻生 日本医師会総合政策研究機構

コロナといえば、5類移行の類型論の話題でもちきりであるが、その一方で令和6年度から始まる第8次医療計画や感染症法に基づく予防計画等の見直しに向けた議論が行われている。つまり、目下の新型コロナウイルス感染症を取り巻く「いま」の話と、「将来」の感染症パンデミック対策に向けた話が、同時に動いている現状にある。

本稿は、「将来」の話である。とりわけ、第8次医療計画は、新たに「新興感染症等の感染拡⼤時における医療提供体制」が追加されたことを受け、これまでの“5疾病5事業”改め、“5疾病6事業”としての最初の計画となる。すなわち、我が国の感染症医療提供体制は、感染患者等に対する“入院中心の医療”という従来の体制を改め、「感染症医療」と一般患者に対する「通常医療」との両立を前提に、入院から療養までを広くとらえて、保健・医療・介護提供体制はいかにあるべきかを考える転換期を迎えている。

令和5年度の都道府県における各種計画策定の議論にあたっては、新型コロナウイルス感染症対応の教訓を活かすことが求められるが、地域によってそれぞれに対応体制が異なることから、それによる課題や教訓も異なり、地域ごとの検証をしつつ、対策を講じていくことが肝要となる。

そこで、日医総研では、東京都医師会及び3区2市医師会の協力を得て、コロナ自宅療養者に対する健康観察及び医療提供体制に関する調査を実施し、地域の実践的教訓を把握した(注1) 。

感染症パンデミックは、感染症の危険性等が十分に明らかではないという流行初期の段階から始まり、その後、様々な知見等が蓄積されることにより、予防・診断・治療体制が確立され、地域における安定的な医療提供体制に移行するという時間的な変化をたどる。

もっとも、新型コロナウイルス感染症の場合には、このような時間的変化に加え、変異株の特性等によって患者層が変化し、それにより求められる医療対応も大きく変動するという特徴があった。例えば、第5波のときに流行したデルタ株は当初は軽症でも急な重症化リスクを伴うものであったが、第6波以降に流行したオミクロン株はそのようなリスクは少なく、入院よりも自宅療養のほうが適している場面もあった。本調査地域いずれにおいても、このような変異株の特性など様々な時間的空間的「変化」を考慮して、流行期ごとに検証を行い、そのつど医療提供体制の再構築が図られていた。

将来の感染症パンデミックのリスクは、必ずしも新型コロナウイルス感染症とは限らないという一面はあるものの、今回の経験は、同様の新型コロナウイルス感染症パンデミック発生時の教訓としての意義にとどまらず、「法制度の想定を超え、様々な要因によってリスクが“変化”する緊急事態にいかに備えるか」という教訓としての意義をも併せ有していると考える。そのため、今回の教訓は、将来、新型コロナウイルスとは特性が異なる感染症によるパンデミックが発生したときにも、その性質に応じた、柔軟な対応を可能ならしめる、汎用性ある持続可能な感染症医療提供体制の検討にあたり重要な知見でもあるといえる。

先般の感染症法改正においては、国/都道府県/市区町村の役割分担の見直しが図られ、さらに現在、内閣感染症危機管理統括庁や、いわゆる日本版CDCとして国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの統合による「国立健康危機管理研究機構(仮称)」の創設に向けた検討が行われ、関係法案の今国会での議論が予定されている。感染症パンデミックには、“国”による全国的な方針が必要となる場面もあれば、入院から療養まで幅広い判断権限をもつ“都道府県等 (注2)”による地域の実情に応じた判断にゆだねるほうが適した場面もあり、さらには、自宅療養のように平時の地域包括ケアを活かして“市町村”が主体となる医療介護連携を図るほうが適した場面もある。

そのことを考えると、組織体制の強化として司令塔の創設や行政間の役割分担と連携の見直しにとどまらず、国/都道府県/市区町村におけるそれぞれの対応方針や判断はいかにあるべきかという視点も必要であり、今回の様々な行政判断が医療現場や介護現場に与えた影響も考慮して、今後始まる都道府県における各種計画作成が行われることが求められる。

【脚注】
注1:王子野麻代・清水麻生「コロナ自宅療養者に対する健康観察及び医療提供体制に関する調査―令和4年改正感染症法を踏まえた法制度的観点からの考察」日医総研ワーキングペーパーNo.468, 令和5年1月18日
注2:都道府県、保健所設置市、特別区。

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王子野麻代・清水麻生
(日本医師会総合政策研究機構)

2023.03.07