医療法人の分割
竹原将人 (税理士)
1.はじめに
医療法人が事業の切り離しを行うには、従前は事業譲渡の方法によるのみだったが、平成27年の医療法改正により持分なし医療法人に限定して分割制度が設けられた。分割に対する課税関係は、平成29年度の税制改正によりスピンオフ税制(単独新設分割の適格分割)が創設され、また、令和5年1月19日に公表された国税庁文書回答事例においても適格分割に係る株式の考え方が明確にされたことにより、分割制度の活用の幅が広がるものと考えられる。そこで本稿では、医療法人の分割制度について解説する。
2.解説
(1)医療法人の分割制度について
①概要
分割とは、医療法人が事業に関して有する権利義務の一部を他の医療法人に移転させることをいい、持分なし医療法人(特定医療法人及び社会医療法人を除く)についてのみ認められる制度である。持分なし医療法人のみを対象とするのは、持分あり医療法人は既存の法人のみ存続を認められており、新設は認められていないためである。
事業の移転は事業譲渡でも行うことはできるが、事業譲渡の場合、病院の廃止届出・新規の開設許可が必要となることや、債権者の個別の承諾が必要となる等、手続が煩雑な部分があることから、株式会社等の他の法人類型と合わせて、平成27年の医療法改正により医療法人においても分割の制度が創設された。
②事業譲渡との違い
前述のものを含め、分割制度と事業譲渡の主な違いは下表のとおりである。
(2)分割の手続
医療法において分割の手続は、以下のとおり規定されている。労働者保手続は合併では行われない手続ではあるが、これは労働者が分割法人または分割承継法人のいずれに所属するか、労働条件がどのように取り扱われるかなど、労働者にとって重要な問題であることから、労働者に対して労働契約の承継の有無や異議申出期限を通知し、異議申出の機会を与えるために行われる。
(3)課税関係について
①概要
分割が行われた場合、分割法人の資産負債は、分割承継法人に対して原則として時価で譲渡されたものとされる。(非適格分割)ただし、一定の要件を満たして、適格分割に該当する場合は、移転する資産負債の支配が継続するものとして、これらは簿価で譲渡されたものとみなされ、譲渡損益は繰り延べられる。
②適格分割に該当するための要件
持分なし医療法人が適格分割に該当するには、分割の類型に応じて、下表の要件を満たす必要がある。なお、下表のほか、適格分割の要件として分割法人等のうちいずれか一法人の株式以外の資産が公布されないことがあるが、持分なし医療法人においては株式に相当する持分がなく、必ずしもこの要件に該当するかが明確ではなかったが、国税庁文書回答事例にて持分なし医療法人においては当該要件により非適格分割に該当しないことが明らかになった。
3.おわりに
事業譲渡では行政認可の新規取得、特に病床許可が実務上の問題となっていたが、分割制度の創設により、医療法人の事業の切り離しのハードルが下がったといえる。また、税制上の手当もなされたことから、今後積極的な事業再編が期待されるものと考えられる。
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竹原将人(税理士)
◇◇竹原将人氏の掲載済コラム◇◇
◆「社団医療法人のガバナンス」【2022.11.1掲載】
◆「出資持分評価と持分移転のタイミング」【2022.7.5掲載】
◆「MS法人」【2022.4.5掲載】
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