マイナ保険証とリスクマネジメント
中村十念 [(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
1.セブンイレブンのレジ
私は緑内障で、目が不自由である。だから、セブンイレブンのデジタルレジは苦手である。以前に小銭を入れようとして、うまく入れられず、ばら撒いてしまったことがあった。それ以来、以前のようにお勘定はアナログでお願いしている。つまり、現金でのやり取りである。
そうしてみると店側によって微妙な反応の違いがある。効率志向タイプと親切タイプに分かれる。効率志向タイプの店はマニュアル通り、私自身にお金を入れさせようとする。もちろん笑顔ではない。親切タイプの店は現金を店員が受け取って、清算してくれる。嬉しかろうはずがないが、笑顔である。セブンコーヒーを店員が操作してくれるところまである。
私がどちらの店の顧客になっているかは言うまでもない。
2.10割負担
いま、医療機関の窓口で「10割負担」という問題が生じているという。受診の際、マイナトラブルが原因で、本人確認ができず、保険証無しと見放され、全ての医療費を払わされるケースだ。結構件数が多いらしく、厚労省は全国の医療機関に「厚労省が足らず分を債務保証するので3割負担で処理するように」という通達を出す騒ぎとなった。
しかし、このようなケースでも、現行の保険証を持っていれば、何ら問題なく事態は収拾する。そこで厚労省は、マイナ保険証利用者にも現行保険証の携帯を呼びかける羽目に陥った。
3.リスクマネジメント
デジタルのリスクはアナログが救う。上記例が示すようにこれはもう公理である。
今回のマイナトラブルの事故処理の手段はシステム遮断と総点検というアナログ手法である。そのような意味で今回の加藤厚労大臣が恥をしのんで、10割負担防止に現行保険証の持参を呼びかけたのは賢明であった。つまりマイナ保険証と現行保険証の併用運用である。
これを一時的なものとせず、マイナ保険証が実用に堪えるまでに進化するまでの間、無期限の運用とすべきである。
4.マイナポイント
リスクマネジメントの視点から見ると、マイナンバーには別の大きなセキュリティホールがある。「マイナポイント制度」だ。
ひとつは、誤付与されたマイナポイントの返還の方法である。どのように返還請求され、どのような方法で返還されるのか。もし返還されなかった場合の法的取扱いはどうなるのか。
次に、国が国民に付与したポイントは、国はポイントメーカーではないので民間から調達する必要がある。どこからいくらで調達されたものであろうか。価格は1ポイント=1円なのだろうか。付与業務には代行会社が当たったと思われるが、そこへの委託料はいくらなのだろうか。
3番目に未使用利益である。国民が受け取ったポイントは、総額2兆円程度と思われるが、その全部が費消されるわけではない。必ず未使用分が出る。未使用分は利益となるが、誰の利益となるのだろうか。国の利益か調達先の利益か。
4番目に付与代行の問題である。ポイントカードを持たない子供や老人は多い。
その人達がポイントを付与される場合、誰のカードに代行付与されるのであろうか。
民間の場合はいざ知らず、国の費用を使った制度である。法的な問題はないのであろうか。
ポイント付与という怪しげな制度を国が運用するに当たり、これらのリスクについては当然検討されたのだと思う。
政策推進策としてモノまね的にポイント制度が使われることを危惧している。
ご存じの方がいらしたら実情をぜひ教えていただきたい。
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中村十念[(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
◇◇中村十念氏の掲載済コラム◇◇
◆「『マイナ保険証』は『現行保険証』との併用で」【2023.2.2掲載】
◆「法と医療のイノベーション」【2022.11.4掲載】
◆「日米半導体戦争」【2022.9.27掲載】
◆「日銀は当然迷走する」【2022.5.10掲載】
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