薬価改定 -選定療養 次の一手は?-
楢原多計志 (福祉ジャーナリスト)
2024年度診療報酬改定をめぐる議論が大詰めを迎え、物価上昇を背景に政府内で「プラス改定」の機運が高まっている。課題は財源をどう捻出するか。総選挙を控え、与党は保険料(率)や患者負担の大幅な引き上げは避けたいところ。薬価引き下げによる財源確保に期待が集まっているが、厚生労働省は「足りない」とみたのか、長期収載医薬品(長期収載薬)を選定療養にして「小銭を稼ぐ」(自民党参議院議員のコメントから)という新手を打ち出した。選定療養の拡大は実質的に患者負担の引き上げにほかならない。選定療養の拡大、次の一手は何か。
▽選定効果1000億円?
2024年度診療報酬改定の在り方を論議していた社会保障審議会医療部会は12月8日、長期収載薬の処方を選定療養とし、患者に保険負担とは別に差額負担を求める厚労省案を大筋で了承した。
長期収載薬とは、特許期間が切れ、後発医薬品(後発薬)が市場に出ているにもかかわらず、先発医薬品(先発薬)として公的医療保険適用されている医薬品のこと。19年度のデータによれば、薬剤費の総額が約10.1兆円。そのうち長期品は1.8兆円で全体の18%を占めている。ちなみに後発薬は1.6兆円で16%と拮抗している。
選定療養とは、患者の希望(選定)などに基づいて行われる医療行為や療養環境、医療材料などを指し、差額ベッド料や大病院の初診料、歯科材料費(差額分)などが一般に知られている。
選定療養になると、長期収載薬と後発薬の差額が保険適用外となり、患者は公的保険に基づいて患者負担(1~3割)のほかに、新たに長期収載薬と差額を負担(選定負担)しなければならなくなる。
厚労省は選定負担について、差額全額ではなく、その「2分の1案」「3分の1案」「4分の1案」との3案を示している。
具体的にどうなるのか。「2分の1案」のケースでは、こうなる。
例えば、薬価500円の長期収載薬と半額の250円の後発薬があるとする。差額は250円。会社員など3割負担の患者が長期収載薬を希望した場合、現行では患者負担150円で済むが、選定療養では保険適用外負担125円(選定分負担)。別途、消費税10%がかかる)。患者負担3割の12.5円の合計237.5円(消費税を含めると、250円)を窓口で支払うことになる。後発薬なら75円で済む。
これまでの審議では、医師が治療上の理由で「後発品ではなく、いままで通り、長期収載薬の服用が必要だ」(変更不可)と判断した場合は、選定療養が適用されず、現行通り、患者は患者負担の150円だけ。薬局に供給不足で後発薬の在庫がなく、長期収載薬を調剤した場合も選定療養にはならない。
選定療養の対象は、「後発薬が販売されてから5年以上経過している」または「5年以上たっていなくても後発薬への置き換え率が50%以上に達している」長期収載薬で、最大900品目。長期収載薬と比較する後発薬が複数品目ある場合、薬価が最も高い後発薬と比べ、その差額をベースに選定負担額を決めるという。
厚労省は12月6日の自民党社会保障制度調査会医療委員会で長期収載薬の選定療養化による財政効果について「400億~1000億円を見込んでいる」と説明した。そこまでして1000億円の財源確保を目指す。意気込みがすごい。
▽創薬に高いハードル
現在、長期収載薬を製造販売しているメーカーは約120社。うち25社は長期収載薬が自社シェアの50%以上を占めている。特許が切れ、薬価改定のたびに薬価を引き下げられても「売れ筋の薬」の需要が高いことが、経営転換の妨げになっている。
「死活問題だ」と当惑を隠さないのは中堅医薬品メーカーの執行委員。自社製品の約6割(数量ベース)を長期収載薬が占めているためだ。利益の大きい画期的な新薬の開発販売に乗り出すには根本的な生産ラインの見直しや人材確保が必須で、資金調達や人材確保などの「ハードルが高すぎる」と話す。
なぜ、ここで選定療養なのか。厚労省の説明によれば、長期収載薬に依存するモデルから、より高い創薬力を持つ産業構造に転換する観点から後発薬への置き換えを進めるという。一理ある。新型コロナウイルス感染でワクチンや治療薬の開発で日本が大きく出遅れていることが露呈した。「1週どころか、2週、3週遅れ」と揶揄されたことも。
だが、厚労省はこれまで何回も算定ルールを見直してきた。つまり、効果が薄かった(「失政」とは言わないまでも)ということ。後発薬メーカーに責任転嫁するような説明は無反省で不遜ではないか。
一方、後発薬への普及策は強烈を極め、既に置き換え率8割(数量ベース、全国平均)の目標を達成し、今では都道府県別のデータを突き付けてバラつきの是正を求めている。まるで豊臣秀吉の「刀狩」を彷彿させる(筆者の感想)。
▽患者も「医療的な必要性」認識?
医療提供側の反応はどうか。
「患者さんの希望であっても、使用感や効き目が違うなど患者自身が感じている医療上の必要性が理由になっている場合もあり、(医師は)患者さんとコミュニケーションを取りつつ、しっかり判断する必要がある」。12月8日の社会保障審議会医療部会での猪口雄二委員(日本医師会副会長)の発言だ。品質や製造が問題視され、選定療養化で負担増を強いられる患者に配慮したのか、苦しそうな発言になった。
当初、選定療養化に難色を示していた日医だが、最終的には厚労案に容認した。医療現場から「医療機関は物価の高騰や人材不足に見舞われており、解消するには診療報酬の大幅なプラス改定しか方法がない」(日本医師会)と政府与党に財源確保を働き掛けている経緯があり、「絶対反対」は貫けなかった? 味を占めた厚労省、選定療養、次の一手は何か。
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楢原多計志(福祉ジャーナリスト)
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