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先見創意の会

地方自治体に対する国の関与 -国の通知に従わない自治体に対して国がとった策と司法判断-

王子野麻代  日本医師会総合政策研究機構

訴訟といえば、私人を起点として、私人対私人、私人対行政という対立が一般的であるが、国対自治体という行政相互間が対立する構図もある。その一例として、自治体が国を訴えて勝訴した事例を一部紹介する(最判令和2年6月30日令和2年(※行ヒ)※行政上告受理事件第68号)。

なお、一般の読者に配慮して、細かい法文等はできる限り避けて簡易な表現を用いる。

1.事案の概要 -国の通知に従わない自治体に対する国の関与-

地方自治体の対応に国が関与する場合、その目的を達成するために必要な最小限度のものとするとともに、地方自治体の自主性及び自立性に配慮しなければならない。もっとも、地方の自主性に委ねた結果、一部の自治体が国の制度趣旨をゆがめる対応を行い、それが他の自治体との公平性の観点から適切とはいえないといった問題が起こりうる。

本件紛争の発端にも、そのような背景があった。国は、是正を図るべく、自治体に対し一定の基準を示した通知(技術的助言)を発出したが、これに従わない自治体(X市など)が一定数存在したことから、問題解決には至らなかった。そこで、法改正して、国の関与を強める指定制度を新たに導入する仕組みに見直された。これにより、自治体が改正法下の新制度に参加するには、国が示した基準に適合するものとして、国の指定を受けなければならなくなった。

平成31年4月5日、X市は、改正法下の新制度に参加するため、国に対し指定の申し出を行ったが、国はX市をこれに指定しない旨の決定をした(以下、「本件不指定決定」)。

その後、国地方係争処理委員会の勧告を受けてもなお、国は同決定を維持したことから、X市は、本件不指定決定は、違法な国の関与にあたると主張して、地方自治法251条の5第1項に基づき、本件不指定決定の取消しを求めて争った。

2.国の通知(技術的助言)に従わないことを理由とする不利益取扱い

前述したとおり、自治体が改正法下の新制度に参加するには、国の指定を受けることが必要であり、そのためには国の基準(以下、「本件告示」)を満たすことが求めれる。本件告示のなかには、改正法施行前の過去の対応を理由に指定の対象外とする場合があることを定めた規定があった。X市は、改正法施行前、国の通知(技術的助言)に従った対応を行っていなかったことから、この基準を満たさず、そのことが本件不指定決定の理由の一つとされた。

もっとも、改正法が施行される前は、自治体に対する国の関与について、法令上の規制は存在せず、国が発出した通知は、技術的助言(地方自治法245の4第1項)にとどまるものであった。行政規則の性質を有する「通知」には法規性はないから、自治体が国の通知(技術的助言)に従わなかったとしてもそのことからただちに違法とされる類のものではなく、むしろ国は自治体が技術的助言に従わなかったことを理由として不利益な取扱いをしてはならない(地方自治法247条3項)。

最高裁は、改正法施行後の国の基準(本件告示)は、施行前の自治体の対応を理由に、指定の対象外とされる場合があることを定めるものであるから、「実質的には、同大臣による技術的な助言に従わなかったことを理由とする不利益な取扱いを定める側面があることは否定し難い。」としている。一方、そのような不利益取扱いであっても、それが法律上の根拠に基づくものである場合、すなわち、本件告示が、その根拠である法律の委任の範囲内で定められたものである場合には、ただちに不利益取扱いの禁止を定めた規定(地方自治法247条3項)に違反するとまではいえないとし、委任する授権の趣旨が、根拠法の規定等から明確に読み取れることを要するとした。

3.委任の範囲の逸脱

最高裁は、本件告示の根拠である法律の規定ぶりや、法案提出の経緯と国会審議における説明などの立法過程における議論をしんしゃくしたうえで、本件告示の指定基準の内容として、改正法が施行される前の過去の対応実績自体をもって、指定を受ける適格性を欠くものとすることを予定しているとは明確に読み取ることができないと評価した。それにより、本件告示の当該規定部分は、法律の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効とされた。

4.おわりに

本件は、当初、地方の自主性に委ねる形で是正を図ろうとしたところ、その限界から、法改正により新たに指定制度を創設し、国の関与を強める法規制を導入する対応がとられた。改正法に基づく国の基準は、改正前に不適切な対応をしていた自治体を一律排除するような内容であり、そのような基準を設けることにつき法の明確な授権があったかが問題となったが、本件にはそれが明確に読み取れないことから、法律の委任の範囲を逸脱した違法と評価された。

翻って、医療介護分野についてみても、このような地方自治体に対する国の関与をめぐる問題は、しばしば起こりうる。本件はひとつのリーディングケースであるが、引き続き、国と自治体間をめぐる法的問題に注目していく。

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王子野麻代(日本医師会総合政策研究機構)

◇◇王子野氏の掲載済コラム◇◇
◆「“将来”の感染症パンデミック対策 – 第8次医療計画や感染症計画の見直しに活かすコロナの教訓-」【2023.3.7掲載】

2023.08.03