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(掲載日 2005.2.1) |
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今年が正念場となる医療制度改革で、新たな課題として中医協改革が浮上している。日本歯科医師会の政治団体の不正経理に絡んで発覚した汚職事件がきっかけになった改革は、中医協が昨年10月下旬にまとめた独自案に政府の「規制改革・民間開放推進会議」(議長・宮内義彦オリックス会長)が“待った”をかける形で政治問題化したのは周知の通りだが、組織のあり方や委員構成などを見直せば、改革の実が上がるのかどうか。最近の動きをもとに私見を述べてみたい。
中医協の意思決定のプロセスは重層的だ。メーンの意思決定の場は総会だが、答申のとりまとめでは非公式協議の場として全員懇談会が開かれたり、公益委員が診療側、支払側双方の委員から個別に意見を聴取して調整に乗り出す場面もある。診療報酬の改定など関係団体の利害がからむ問題は、最終的に政府・与党の政治判断に委ねられる。第1ラウンドの戦いが中医協での議論、第2ラウンドの戦いが首相官邸や与党幹部への働きかけという構図だ。
国民生活に密接に関係する事柄だけに、「世論」の動向も無視できない。「世論」には国会議員の地元有権者の反応やマスコミの論調などがある。政治のポピュリズム(大衆迎合)的な色合いが強まっている中で、世論は政治判断を大きく左右する。
■存在感薄れる中医協
少子・高齢化に伴う社会保障財源不足が顕在化し、限られたパイを奪い合う利害調整にならざるを得ない医療改革がパワーゲーム化する中で、中医協の存在感は薄れる一方だ。答申への両論併記が常態化している状況は、組織そのものの存立を危うくしている。
診療側、支払側は最初から政治決着を念頭に置いているから、中医協での発言はお互いが建前の論議に終始する。総会が傍聴できるようになったとはいえ、建前の応酬ではニュースバリューはないに等しい。いい意味での世論喚起ができない状況が続いている。
この結果、診療報酬改定の不透明さだけがクローズアップされることになる。中医協の廃止や解体的見直し論が出てきても何ら不思議ではない。厚生労働省内には、抜群の調整力を示した円城寺次郎会長時代(1970〜1989)の中医協への憧憬があるが、特定の個人に依存する審議会運営は安定感を欠くだけでなく、弊害も出かねない。日歯汚職事件で逮捕、起訴され、1審で有罪判決を受けた下村健・前健保連副会長のケースは、まず自己責任が問われなければならないが、中医協委員歴が長く、議論のリード役だった点が収賄の背景にあったと見てよい。
また、中医協廃止論の背景には、医療制度改革だけでなく年金改革や介護保険の見直しでも露呈した厚労省の政策立案・調整能力の低下もある。「審議会は行政・官僚政治の隠れ蓑」といった批判はあるにせよ、黒子役の厚生労働省が一定の調整機能を発揮できれば、今日の状況は違ったものになっていたと思われる。
中医協が昨年10月27日にまとめた独自の改革案には失望した。現職委員が日歯汚職事件で逮捕され、機能不全に陥ったとはいえ、評価できる内容は委員の任期を「3期6年を上限とする」とした点以外には見当たらない。審議の透明性を確保するために、非公式な協議についても「公益委員が必ず協議の経過等について公開の場で報告する」としているが、診療側・支払側双方の本音はますます表に出にくくなる。水面下での“談合”が横行するようになれば、公益委員による調整機能の喪失は決定的なものになる。
■大きな前進望めぬ中医協改革
4人いる公益委員の1人に患者代表を充てるとしているが、これも真剣に議論した結果なのかどうか、首をかしげざるを得ない。日歯汚職事件で中医協委員だった副会長が逮捕された連合(笹森清会長)の推薦枠の一つを割き、推薦は連合が行うとしているが、労働組合の推定組織率が20%を割り込んでいる中で本当の患者代表と言えるのかどうか。しかも、改革案を公表した時点で、連合の推薦基準に関する基準が決まっておらず、当面は空席となる。
汚職事件の震源地となった日本歯科医師会についても、推薦枠2人のうち1人は組織外の日本歯科医学会会員となるが、身内であることに変わりはない。こちらも日歯が機構・組織の抜本見直しをまとめるまでは空席になる。
連合、日歯とも中医協での発言力維持に汲々とした姿が浮かんでくる。日本医師会の推薦枠5人はそのままで、すでに1人が加わっている病院代表を増やすかどうかは日医の判断に委ねられた。日医は、逮捕者を出してあたふたする団体を横目に「高見の見物」を決め込んだといったところだろう。汚職事件発覚後、6か月も経ってこの程度の改革案しかまとめられなかったこと自体、中医協自体の自浄能力の欠如と危機感のなさを如実に示している。
患者代表が新たに加わったとしても、医療にずぶの素人では議論の混乱を招く恐れがある。患者の意見や要望を吸い上げて診療報酬に反映させる仕組みは必要だが、それと患者代表を中医協委員にすることは同じではない。いまの中医協からは、「専門家集団」としての気概も責任感も伝わってこない。
中医協改革は今後、規制改革側が求めた厚労省外の第3者機関ではなく、同省内に設置される検討会議で議論されるが、大きな前進は望めまい。中医協に委員を送り込んでいる団体は“既得権”の死守に走り、規制改革側はこれを打破しようとしてパワーゲームに走るのは目に見えている。そうなれば、中医協が最優先で取り組むべき診療報酬体系の見直しといった積年のテーマは後回しになる。改革論議が政争の具になればなるほど、国民はしらけ、医療制度に対する不満や不信を募らせるだけだ。
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