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「混合診療問題を原則論からわかりやすく国民に示そう」浜田秀夫
(掲載日 2005.3.8)
  混合診療は是か非か。正確には特定療養費制度が存在するので、拡大か全面解禁かという論点となる。昨年来、小泉純一郎首相の判断が注目されたように大きな国政課題である。だから反対派も賛成派も一般国民にわかりやすく説明することが大事だ。ところが、政治問題であるだけに賛否両派の思惑がらみの議論になりがちで、制度の趣旨に即した原則論が十分でないと、かねてもどかしく思っていた。ならば、どのように説明するのがいいのか、その方法論を考えたい。筆者は反対論者なので、その立場から論じたい。

■保険診療の本質論を省いてはならない

 まずは国民にわかりやすくするためには、混合診療だとどうなるという具体的な状況を設定することが必要である。実例を挙げる。2004年11月に東京都医師会が新聞に出した意見広告である。これは、混合診療が行われた場合を想定して、「新薬、試してみましょうか。健康保険、きかないけど」という医師の発言から問題を提起し、保険診療が狭められるためカネを持っていない患者が不利になると懸念を示した。わかりやすいと思う。自説に都合のいいような無理な設定でもない。

 次に、こうした事例設定をしたら、議論の前提となる混合診療の定義、保険診療、自由診療の意義も示して必要がある。ところが、この広告の場合、それらを説明していないという難点がある。保険診療の対象が限定されるからよくないというけれど、なぜそれがよくないのか理由を説明していないのである。すなわち、保険診療がなぜ大事なのか説明がない。

 これには「保険診療が大事なのは当たり前だ」と反論されるかもしれない。しかし、そうではない。保険を重視しない経済界など賛成派にはまったく「当たり前」ではない。この広告と同じ事例に対し、「自由診療が拡大して便利だ」と逆の主張をすることがあり得るし、実際、筆者も聞いたことがある。結局、保険診療と自由診療の本質に戻って議論せざるを得ないのである。だから前提が必要なのである。

■「よくできた現物給付」

 では混合診療の定義や、保険診療や自由診療の本質とは何か。これについては、02年に東京・新橋で開かれた医療経済機構主催の医療制度改革をめぐるシンポジウムで、日本医師会副会長(当時)の青柳俊氏が発言したことが参考になる。青柳氏は混合診療を定義して、「もっとも派」「ちゃっかり派」「乱暴派」「確信派」「分からず屋派」と5分類した。定義ひとつとってもこれだけある。

 その詳しい内容はいずれ本人による解説を期待するとして、本論でいう混合診療とは青柳分類の「確信派」に当たる。早い話が保険診療と自由診療の組み合わせという一般的な定義であり、現行の特定療養費制度を拡大しようと経済界などが「確信」をもって考えているものだ。そして、青柳氏は「(経済界などの確信派は)現物給付制度から現金給付へ持っていこうと考えている」と分析している。この現物給付と現金給付こそ保険診療と自由診療それぞれの本質なのである。

 保険診療は患者は医者から治療を受け、医療費は保険から支払う。患者は保険から金を受け取るのでなくいわば現物(医療)を受け取る。これだといくら治療費がかかるか心配することなく医療が受けられる。保険証一枚でだれもが平等にどんな名医にも診てもらえる。「現物給付はよくできている制度」といわれるのはこのことである。これに対して自由診療は、患者が医師に金を払う。そのために民間保険から金を受け取る。これが現金給付である。

■「連帯・平等」VS「競争・自由」、異なる思想

 この二つは基づく思想がまったく違う。保険診療とは支え合いと平等がキーワードである。国民が保険料を出し合って成り立つ。貧乏人も金持ちも「お互い様」で連帯しているので平等なのである。一方、自由診療は文字通り自由と、そして競争が基本思想である。自分だけいい医者を求め、金を惜しまないという発想が働く。

 ここまできて初めて混合診療とは異なるもの同士の接ぎ木である、と国民にも少しはわかってもらえると思う。それを踏まえると、ある患者が保険を利用した上にさらに自費で上乗せ治療をすることの意味は、こういえる。一見便利であっても、その患者が金持ちであれ貧乏であれ保険という支え合いを踏み台にするので不平等なのである、と。したがって、混合診療の全面解禁は非とするというのが筆者の結論となる。念押しすると、ここでいう不平等は貧富の差とは無関係であることに注意してほしい。

 専門家には自明のことだっただろう。また、こう主張したからといって、現実にはいわば保険に開いた穴が少しずつ拡大しているのをすぐには止められない。しかし、筆者が述べてきたような原則論をかみくだいて国民に説明しておくことは、感情的でなく冷静な議論をするために有益なのではないかと信じている。それによって国民は政策決定が正しい方向に沿っているのかどうかをチェックできるからである。専門家は国民へのわかりやすく正確な説明を心がけるべきである。

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