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コラム
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「『たかが漫画』。だが…」 浜風
(掲載日 2006.05.02)
 医療をテーマにした漫画が大人気だ。「たかが漫画」と言うことなかれ、荒唐無稽なシーンも少なくないが、これが、結構、面白い。購読層はアニメ世代の20〜40代の垣根を越え、団塊の世代や政治家にまで広がっている。それにしても、なぜ、いま、医療なのか。

■800万部のシリーズ

 個人的な趣味で、恐縮だが、漫画週刊誌に連載中の「Dr.コトー診療所」 (山田貴敏著、小学館)、「医龍」 (乃木坂太郎著、同)、「ブラックジャックによろしく」 (佐藤秀峰著、講談社)の3シリーズを取り上げる。いずれもテレビ番組になっており、漫画に興味のない諸兄でも、題名くらい、聞いたことがあるのでは…。

Dr.コトー診療所 「コトー」は、一流病院を追われ、離島の診療所に赴任した外科医と島民との交流がテーマ。離島医療の厳しい現実を実感しながらも、美しい自然と島民とのふれあいの中で医師の使命と生き方を再発見する。単行本の総発行部数は800万部を突破したという。

医龍 「医龍」は、大病院を追われた天才外科医と医局の改革を訴える女性外科医が主役。画期的な心臓手術を通じ、旧態依然の組織と医療の再生を目指す。4月からテレビ放映が始まった。



ブラックジャックによろしく 「ブラックジャックに」は、研修医が主役。患者を「医学の材料程度」のようにしか扱わない医局の姿勢や同僚の無気力に激しく反発するが、医局に残留するには見て見ぬふりが無難…。まさに苦悩の日々。

  3シリーズに共通するのは、主役が「落ちこぼれ」であること。そして医療現場の荒廃と医療制度の矛盾を訴えていること。使い古されたテーマであり、新鮮味はない。それに漫画ゆえか、看護師がメスを振るったり、執刀医が手術の途中で別の手術に立ち会ったり…。あり得ない場面や会話が続出する。時には、場所をわきまえない恋愛シーンもある(これは許せる)。

■不信と期待と

 なぜ、こんなに読まれるだろう。1つ考えられることは、以前(20、30年前くらい)の作品と違い、医療・医学用語がふんだんに使われ、リアリティがあり、劇画として面白いことだ。しかし、最も大きな要因は、読者の間に定着しつつある「医療不信」を払拭する「理想的な医療」への期待があるからではないだろうか。3シリーズには、読者の期待に応える言葉が随所に見られる。

(1) 手術に明け暮れていた勤務医時代を思い起こしながら主人公がつぶやく。「病気を見ずに病人を見る。人が人を治すんだ」(「Dr.コトー」)
(2) 心臓手術中に緊急事態が発生。チーム医療の仲間に向かって主人公が叫ぶ。「一人でも命をあきらめない者がいれば、俺は何があっても、みんなと前に進む」(「医龍」)
(3) 独断的だが、黙々と精神病患者に立ち向かうベテラン精神科医と、治療方法をめぐって対立してしまった研修医が泣きながら訴える。「僕は先生のようなやり方はとうていできません。だけど先生のような医者になりたいんです」(「ブラックジャックに」)。

  理想の1つは医療の安全だ。医療事故や医療ミスは今も昔もあった。昔は、事実が隠蔽されることが多く、医療不信は大きな広がりにはならなかった。ところが、昨今、情報の開示によって、事実が事実として表に出るようになった(まだ不十分だが)。

■メディアの影響力

 隠蔽は言語道断だが、1つの懸念は、媒体によって、事実が歪曲されたり、誇張されたりすることによって、事実が事実から遠のき、限りなく虚偽に近づいてしまうことがあることだ。漫画も、そこそこの影響力を持ち得る。ただ面白ければ良いというわけにはいかない。1つの情報発信源として、根も葉もない虚偽を流すことは許されないだろう。3シリーズは医療関係者の監修を受けているらしく、目に余る虚偽は見られないが…。

 一方、媒体としての新聞や放送はどうか。「ブラックジャックに」に記者の姿勢を問う場面がある。精神病院の通院歴のある容疑者が多くの児童を殺傷する事件が発生する。新聞は「精神障害者を野放しするな」と論調をはる。だが、後日、精神障害者を装った事件と判明する。精神障害者による犯罪発生率も低いことが分かるが、新聞は訂正しない。

 ぱっとしない定年直前の科学部記者が編集局幹部に「精神障害者に対す誤解を晴らす連載記事を出したい」と申し出るが、なかなか受け入れられない。やっと出稿が決まったが、幹部は「記事の内容に責任が取れるのか」と言い出す。科学部記者が珍しく反論する。「新聞記者が新聞の問題に真剣になってはいけませんか」。臭い言い回したが、ズッシリくる。
 <テレビ番組>
 ・Dr.コトー診療所
 ・ブラックジャックによろしく
 ・医龍
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