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コラム
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「非公務員でも年金は運営できる 〜続・社会保険庁の『二足のわらじ』〜」 浜田 秀夫
(掲載日 2006.11.14)
 社会保険庁問題について、自民党内で職員を「非公務員化」する案が出ているという。10月2日の衆院本会議で、代表質問に立った中川秀直幹事長が、社会保険庁の職員労組を名指しして、非公務員化に言及した。翌日の3日付読売新聞でも自民党の動きが報じられた。

 もちろん労組支持を受ける民主党に対する政治的揺さぶりでもある。また、組織はもとより年金制度そのものについての議論も必要ではある。ただ、ここでは考え方として非公務員化は可能かを記したい。結論を言えば、それでも構わない、というのが私見である。(中川幹事長発言は国会会議録検索、あるいは同氏ホームページへ)

■自己保身と使い込み

 まず、この問題を論じるため、筆者が先に書いた「『二足のわらじ』社会保険庁問題講座」をおさらいしておく。社会保険庁職員の本質だからである。社会保険庁は、公務員組織であるとともに社会保険の運営者とその事務局すなわち保険者という二つの立場をもつ。ところが、彼らは二足のわらじをご都合主義で使い分けてきた。

 公務員としての表の顔は、「お上」として国民を保護する「護民官」のつもりでいることだろう。これは日本の公務員一般に言えるパターナリズムの発想である。そして、保険運営者の表の顔は、年金加入者のためにまじめに働く事務局員ということになろう。

 しかし、実際は、公務員としては自己保身が実態のようである。年金保険料免除がその証拠である。加入者のためという護民官を装いながら、実は組織温存のための偽装工作だった。保険運営者としては、マッサージ器などに保険料を無駄遣いした。使い込みと言ってもいい。特に、年金財政が厳しいときに、加入者が預けた金を「着服」するのは許されなかった。加入者情報の覗き見という体質も露呈した。

■公務員は「公務員」にこだわる

 結局、自己保身と使い込みという最悪の「二足のわらじ」をはいている。私たち年金加入者からすれば、公務員の顔はともかく、保険運営者としてまじめにやってもらうのが最低の条件である。

 ところが、非公務員化問題が出たのを受けて、筆者が少し関係先を取材してみると、彼らは盛んに「行政サービス」をきちんとやっていくということを言っている。最初に公務員身分にこだわっているのである。裏返して言うと、公務員身分での揺さぶりは、小泉前首相の郵政民営化のように公務員にとって一番の衝撃なのであろう。

 さて、非公務員化する案は妥当かどうかを考える。政治的揺さぶりの側面でなく、いわば思想や理論面で成り立つか考えたい。

 社会保険は何度も言ってきたように、能力に応じて保険料を出し合い、お互い様で支え合う仕組みだから、「自分たちのもの」であり、「お上」から恩恵を受けるものではないはずである。そのための保険を運営する事務局は、信頼できる組織・人材を選ぶ必要がある。

 これを現状についてみると、社会保険庁という公務員組織が運営している。社会保険は戦前からの制度であり、戦前は国家総動員体制を、戦後は高度成長を下支えした。要するに労働者を安心して働かせ、強い国をつくるためだった。日本の近代化が「お上」によるものだったので、官僚統制が行われてきたのである。

■非公務員化は国民の自立の好機

 しかし、少子高齢化、成熟社会になって、官僚統制の必然性は言えなくなっているのではないか。年金の未納・未加入が拡大したのは、制度への不安と社会保険庁の自己保身と使い込みに対する不信からだろう。制度そのものの議論は省いて、「加入しろ」と官僚による強権発動しても効果が薄い。国民は納得しないと法に従わないのである。

 そこで「お上」任せでなく、自分たちで運営するという方法が考えられる。もともと社会保険は連帯の原理でできている。国民が自発的に参加するという「自立」が本来求められる仕組なのである。

 もちろん、だれかを事務局にして運営させる。そのとき、社会保険庁組織を非公務員化するのはありえる。民間人である国民が直接、保険事務局員としての身分のみで雇う。医療では健保組合という実例が存在する。年金の場合、全国規模になる。

■持参金問題でもめるけれど……

 もっとも、こうした事務局は公共性の高い組織にするのは当然である。そして、保険料で給料を払うことになるのだから、使い込みをさせないよう被保険者代表による監査制度をしっかりする必要がある。

 非公務員となれば事務局職員自身の年金も厚生年金にする。公務員の共済年金から移行させる。そのときは、突然の給付増になるので、財源つまり持参金を用意してもらう。これは農林年金の厚生年金への統合のとき一悶着があったので、もめるとは思う。

 公務員身分をなくし、二足のわらじを脱がせるのは、社会保険運営という本務に専念させることになる。国民の側からすれば、「自分たちの年金」を自覚することになる。未納・未加入問題も、加入者である国民の代表なりが事務局ともよく議論して、未納・未加入の人々に対し、「連帯を弱めることになるのだから入ってほしい」と説得する義務がある。国民の責任も重くなる。それでいいのではないかと思う。
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