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(掲載日 2007.01.09) |
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前々回の拙稿「『増税案は選挙に負けるから言わない』という日本民主主義の貧困(2006.08.08掲載コラム)」で、「増税案を出せば選挙で負けるから出さない」という態度の政治家を、黙認も含めて許す国民は、いつまでたっても増税は選挙と選挙の間にだまし討ち的に行われる政府しかもてない旨を述べた。
その後、政権が小泉内閣から安倍内閣に変わり、政策決定プロセスも様変わりしそうな状況である。安倍内閣が政権発足直後に示した基本方針では、経済成長を重視し、財政健全化に取り組むことは示したが、増税については一言も触れなかった。
その3ヶ月前の小泉内閣末期の2006年7月に出された「基本方針2006」(いわゆる骨太の方針2006)では、歳出・歳入一体改革として、2011年度に国と地方を合わせた基礎的財政収支(プライマリー・バランス)を黒字化することを目標にその具体策を明記したが、歳出削減が足らなければ増税が不可避となることを示唆していた。
その3ヶ月後には、増税について一切明言しない姿勢に転換したことになる。
もちろん、この背景には、2007年夏に予定されている参議院選挙に向けた対策があることは隠しようもない。有権者がどこまで増税を忌避しているかを知ってか知らずか・・・
さらに、政府税制調査会(内閣総理大臣の諮問機関)は、前期の委員の任期がこの9月に満了するのを受けて、官邸主導を匂わせる形で、会長を交代させた。この任期満了が、ちょうど小泉内閣から安倍内閣へ移行する時期と重なったこともあり、会長交代によって、政府税制調査会での議論は、様相が一変した。
例えば、これまでは消費税率を二ケタにする方向性を明確に示していたが、新体制の政府税制調査会では、消費税率についての本格的な議論を、安倍内閣の方針に従って2007年秋まで先送りすることとなっている。
他方、民主党は、11月28日に内政や外交・安全保障の指針を定める基本政策の原案を発表した。その中で、安倍内閣の動きに呼応してか、2005年の衆議院総選挙の際に打ち出した税率3%の「年金目的消費税」導入(すなわち税率引上げ)は撤回することとし、消費税率は5%を堅持することとした。
もとより、社民党や共産党は消費税率の引上げや消費税そのものに反対する立場を引き続きとっている。
こうして、我が国の政党の中で、増税を掲げる政党はなくなって2006年が暮れようとしている。果たして、それで本当によいのだろうか。
筆者自身、増税は出来る限りしないに越したことはないと確信している。しかし、未曾有の高齢化の進展により社会保障費の増大は不可避であり、前代未聞の巨額にのぼる政府債務の返済のために、その分だけ国民のための行政経費に充てられる税金は相当限定的なものとなる。
そうした客観的情勢を鑑みれば、増税をしないことは、政府支出を徹底的に抑制することを意味する。場合によっては、必要性の高い政府支出でさえ(増税しないために財源が確保できないことから)大きく削減せざるを得なくなるかもしれない。
増税をする前に、まずは予算の無駄遣いをなくせという声は依然根強い。こうした指摘もかれこれ6、7年も続いているが、その間政府は無策だったわけでもない。税金の無駄遣いを減らすことにある程度は成功しており、残された無駄遣いは金額が小口なものになってきている。
さらに無駄遣いを減らすことに血眼になったとしても、そこから浮いて出てくる財源は高々数千億円というオーダーで、今後兆円単位で増大が予想される社会保障費や公債費(債務の元利返済費)を前にすれば、残念ながら焼け石に水というのが客観的な状況である。
特別会計であれを削れば数兆円の財源が浮く、といった類の主張もあるが、それを実現するためにどれほどの政治力が必要であるかを主張する者はわかっていない。
結局、現状においては、増税をしないということは、財源が確保できないためにあらゆる分野の政府支出を削減して、「小さな政府」を目指すことを意味することと同義といわざるを得ない。増税を忌避すれば、不可避的に小さな政府への道が待っていて、社会保障の給付抑制論もさらに過熱しかねないといって過言ではない。
さて、そこで先の政党の増税に対するスタンスを振り返ってみよう。
どの政党も、増税を表に出そうとしないということは、「小さな政府」を目指そうとしているのだろうか。自民党はその方向性が感じられる意味で整合的であるが、野党は必ずしもそうではなさそうである。
確かに、野党は「小さな政府」を目指しているとは思えないが、予算の無駄遣いを減らせば数兆円単位の財源が浮き、それが充てにできると勘違いしている節がある半面、公務員の労働組合に対しては友好的で、公務員人件費削減に積極的だとはいえない立場である。
各政党は、このような立場で2007年の参議院選挙を迎えようとしているのだろうか。もし心から社会保障給付の財源をきちんと確保すべきだと思っているならば、多少の増税もやむをえないと正直に唱える勇気はないのだろうか。
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