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「不況という氷を溶かしたのは、・・・」 長谷川 公敏
(掲載日 2007.04.03)

 前回、「不良債権の存在が金融機関の資金を固定化させ、景気回復を阻害した」との見方は、誤りであると説明した。

 だが不良債権については、「不良」という名前がいかにも「悪さをする」という印象を与えることや、不良債権の残高と景気動向が同じように推移していることなどから、「識者」の間では景気回復の阻害要因だとする見方が根強い。

■「バランスシート調整」という「不良債権犯人説」

 もうひとつ、別の角度から見た「不良債権犯人説」を簡単に紹介しよう。

 金融機関の不良債権は企業から見ると約束どおりには返済していない借入金だ。

 従って、借金で買った土地などの資産が値下がりしても、従来からの業務が順調で従来どおりに借金を返済していれば、金融機関はその企業への貸付金を不良債権とは認識しない。

 しかし、企業から見ると値下がりした土地などは不良資産であり、値下がり分を償却(減損処理)すると債務超過になり倒産する恐れがあるので、借金を返済することで帳尻を合わせようとした。(注)

 企業が借金返済を優先させ新たな投資をしなかったので、経済活動が低下し景気回復が阻害されたが、その後、企業が土地などの資産価格の値下がりに見合う借金返済を済ませたので、景気は回復過程に入ったという考え方だ。

 所謂「バランスシート調整」が景気回復を阻害したという見方で、「企業の借金返済行動が不況を引き起こす」という意味で、「不良債権犯人説」といえるだろう。

■「バランスシート調整」説の問題点

 この説には多くの問題があるが、一番大きな問題は、「企業が借入金を返し続けているのに、経済規模の縮小がなぜ止まったのか」ということだ。

 企業がある時点で資産価格の下落に見合う借金を返済しても、借金の返済によって経済活動が低迷し資産価格は下がり続けるので、資産価格と借金の帳尻はいつまで経っても合わないのではないか。

 つまり、「借金の返済→需要の減少→資産価格の下落」はスパイラル的に続き、歯止めがかからないので、企業がいくら借金を減らしても、経済規模の縮小は決して止まらないはずだ。

■景気回復の本当の理由

 日本経済が回復過程に入ったのは、何らかの理由で投資(=需要)が増え始め、資産価格が下げ止まったからだ。

 日本経済は1994年にGDPデフレータがマイナスになり、デフレの道を歩み始めた。最大の要因は土地や株式などの資産価格の下落で、所謂「逆資産効果」が経済を圧迫したためだ。

 その後、1997年の消費税増税などの国民負担増を契機に日本経済は本格的な不況に入り、翌1998年には「金融システム不安」が起きるなど未曾有の経済状態になった。

 海外ではITブームで経済活動が活発だったが、日本経済の状況はその恩恵を打ち消して余りあるほどひどいものだった。その後とられた経済・金融政策が奏功し景気は一時持ち直したが、2000年にITバブルが崩壊し、日本経済は再び低迷した。

■海外景気の急拡大が最大の理由だが・・

 今回の景気回復は2002年2月から始まっている。最大の要因は海外景気の急拡大だ。

 世界最大の経済規模である米国では、ITバブル崩壊後、グリーンスパンFRB議長(当時)が矢継ぎ早に大幅な利下げを行い、米国経済をあっという間に立て直した。

 世界経済の急拡大に伴い、輸出比率が高い日本企業の業績も急回復した。当時日本では「メガバンクでも倒産するかもしれない」との懸念から、相変わらず国内需要は低迷していたが、このときの海外需要の拡大はそれを補って余りあるものだった。

 2003年春、メガバンクの倒産懸念が払拭されたことを契機に、日本の株価は企業業績の拡大を素直に反映し上昇し始めた。もうひとつの資産である土地の価格は依然低下し続けていたが、株価が上昇し始めたことで、株価による資産効果が景気回復を後押しした。

 結局、メガバンク倒産懸念で多少ギクシャクしたものの、海外景気の急拡大とそれに伴う株価上昇が日本経済を回復させたのである。

 しかし、景気回復のテンポが極めて緩やかである一方で、日本の景気が海外の景気動向に、株価が外国人の売買動向に依存している状況は依然変わっていない。

(注)
この説では、「企業は倒産を恐れて債務超過を忌避した」としているが、一般に企業は債務超過になっても倒産することはない。企業が倒産するのは「資金繰りがつかなくなる」場合だ。
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