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「税収格差論のまやかし」 土居 丈朗
(掲載日 2007.05.22)
 最近、地域間の税収格差が再び大きく取り上げられている。特に、東京を始めとする都市部の自治体で、法人課税の税収が伸びたのに対して、農村部の自治体では依然として税収が増えていないことも「格差」を顕著にしたといえる。

 こうした税収が地域的に偏在する理由として考えられる大きな背景には、課税対象となる所得、消費、資産等の額が地域的に差異が大きく存在することが挙げられる。そこで、税収格差は、どの税目によってもたらされているかをみてみよう。

 図1には、総務省の『平成19年度 地方財政白書』に掲載された、都道府県別に見た人口1人当たりの税収額の指数が示されている。この一番左端のグラフで見ると、都道府県別に見た人口1人当たりの税収合計では、最も多い東京都と最も少ない沖縄県の間で、3.2倍の格差がある。これは、それほど東京都の税収が多い、という話として、最近有名になりつつある。

 その原因を税目別に見てゆくと、顕著にいえることは、法人2税(法人住民税と事業税)で地域間格差が大きいことである。この図に挙げた税目では、いずれの人口1人当たり税収でも、最大なのは東京都で最小なのは沖縄県である。そこで、この両者の乖離を計ると、個人住民税は3.3倍、固定資産税は2.4倍、地方消費税(税率5%消費税のうちの税率1%分)は2.0倍となっている。これに対して、法人住民税と法人事業税を合わせた法人2税は6.9倍となっている。

 この倍率からみると、法人2税の地域的偏在が顕著に大きいことがわかる。法人2税は、地方消費税や固定資産税に比べて地域的な偏在がかなり大きく、個人住民税よりもなお大きいといえる。

 そこで議論になっているのが、この税収格差をどう均すか、ということである。1つのアイディアとして考えられるのは、そもそも格差の源となっている法人2税の税収構造を見直すという話である。つまり、企業の営業地に比例する形で税収が入るという現在の税金の取り方だと、東京一極集中になるから、これを改めて、人口比例や地方消費税のような取り方で各地の自治体に税収が入るように変える、という話である。それから、個人住民税の一部を、納税者の意向で納税先を選べるようにする「ふるさと納税」である。

 ここで取り上げたいのは、どうすれば税収格差是正がうまくできるかという話ではない。そうではなく、図1にある「税収格差」はまやかしだ、ということである。そもそも、現在の地方財政の仕組みからして、図1にあるような税収格差は、地方交付税などによって過度に是正されすぎていて、「税収格差」ならぬ過保護な格差是正が生み出す「逆差別」が存在するのである。

 図1をみると、東京一人勝ちのようなイメージを持つが、それは真実ではない。実は、図2の姿こそが、真実なのである。

 図2の水色の棒グラフには、図1の一番左端のグラフを金額ベースに直して示したものである。つまり、都道府県別の人口1人当たりの地方税収の額である。地方自治体の税収には、これだけでなく、地方譲与税(本来は地方税となるべきだが税務の都合上、一旦国税として徴収され、その後地方自治体に配分される税)もある。これが青色の棒グラフで表される。ただ、地方譲与税を加えても、図1で示された「税収格差」の姿は本質的に変わらない。

 そもそも、こうした「税収格差」は今に始まったことではない。高度成長期以前からも存在していた。そのため、税収が少ない自治体でも十分に行政サービスが提供できるように、国が自治体にお金を配る仕組みがある。それが、地方交付税である(さらには、ひも付き補助金である国庫支出金もあるが、使途が特定されるお金であるから、ここでは議論の対象外とする)。地方交付税は、基本的に、税収が少ない自治体により多く分配されるように配られる。だから、税収格差を均す機能が備わっていると理解されている。

 そこで、先の地方税と地方譲与税の収入に、地方交付税等の収入も加えて人口1人当たりで都道府県別に見るとどうなるだろうか(ここでは、「地方交付税等」の中に、近年の税制改正や地方分権改革に関連して国から特別に自治体へ配られるお金である地方特例交付金も含まれる)。それを見たのが、図2の赤い棒グラフである。

 地方自治体は、地方税だけで行政サービスの財源を賄っているわけではない。地方譲与税、地方交付税などの財源も行政サービスに充てられる。ここに示した、地方税と地方譲与税と地方交付税等は、総じて一般財源といわれ、地方自治体が使途を自由に決められる性質を持つ財源である。

 この一般財源全体で見ると、実は東京都の一人勝ちという構図は、完全に消え失せる。島根県、高知県、鳥取県、秋田県は、東京都よりも多い収入源を得ているのである。さらには、東京都並みの収入を持つ県もたくさんある。こうして、地方交付税によって、税収格差は是正されているのである。それがありながら、なぜ図1のような「税収格差」に目くじらを立てなければならないのだろうか。

 さらにいえば、人口1人当たり一般財源額(地方税、地方譲与税、地方交付税等)が最も少ないのは、埼玉県である。その額は、最も多い島根県の半分以下である。埼玉県は、地方税収だけでみると島根県より多かったが、地方交付税等をもらった後で見ると、その額で逆転現象が起こっているのである。東京近郊の県や愛知県、大阪府といった都市部の自治体では、軒並み同様のことが起こっている。

 果たして、そこまで過保護に「税収格差是正」をする必要があるのだろうか。都市のベッドタウンに住み、一生懸命働いて地元に(農村部に住む人よりも多く)税金を納めて、行政サービスを受けようと思うと、農村部の自治体よりも少ない恩恵しか得られない、というわけである。地方交付税の既得権がかたくなに保護されているために、国の一般会計では、歳出削減圧力のしわ寄せは社会保障に来ている。「税収格差」が問題というより、地方交付税の仕組みが問題なのである。

■図1:「都道府県別に見た人口1人当たりの税収額の指数」 (拡大図はこちら >>)



■図2:「地方税、地方譲与税、地方交付税の人口1人当たり収入額(2005年度)」 (拡大図はこちら >>)

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