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コラム
今週のテーマ
(掲載日 2007.12.25)
 
 ■社会保障費、年▲2,200億円の無理難題

 2007年12月18日、財務大臣と厚生労働大臣が、2008年度に診療報酬本体を0.38%引き上げることで合意した。診療報酬「本体」とは、医科、歯科、調剤(薬局での処方。薬剤費は別途)を指し、診療報酬とはこれらの治療行為等の対価をいう。

 財務省は、来年度予算編成において、社会保障費(国の負担)年2,200億円削減のタガを緩めることはなかった。これに対して、厚生労働省は従順に▲2,200億円の体裁を整えた。そしてそれ以上の財源を捻出し、診療報酬本体8年ぶりのプラス改定に漕ぎつけたというわけだ。

 しかし、そもそも年2,200億円の機械的な削減は、たいへんな無理難題である。

 「基本方針2006」は、それまでの過去5年間と同様の歳出削減(1.1兆円、年2,200億円)を求めたが、過去5年間(「基本方針2006」までの5年間をいう)で、ぴったり年2,200億円削減された年は1回しかない。2002年度▲3,000億円、2003年度▲2,200億円、2004年度▲1,254億円、2005年度▲601億円、2006年度▲3,490億円だ。

 「基本方針2007」にも、「平成23年度までの5年間に実施すべき歳出改革の内容は、機械的に5年間均等に歳出削減を行うことを想定したものではない」とある。このあたりの背景は、「いんちきな社会保障費削減」に詳しく書いた。

 最近では、経済財政諮問会議の「日本経済の進路と戦略」(2007年12月14日原案)が、「国の予算編成は、引き続き昨年度の「進路と戦略」、「基本方針2007」で示した予算編成の原則に基づいて行う。

 ただし、外生的なショックで経済危機に直面した場合など景気が例外的に極めて厳しい状況となった場合には、大胆かつ柔軟な対応を行う」とトーンダウンした。

 ここでの「厳しい状況」とは、原油高騰やサブプライムローンの影響を指しているかと思われるが、国民から見れば医療崩壊こそ非常に「厳しい状況」だ。社会保障費削減▲2,200億円を律儀に守らせるほうがどうかしている。

■身内びいきのマスコミ報道−「肩代わり」は無理強いか−

 しかし財務省の要求は揺るがなかった。このため厚生労働省は、政管健保の国庫負担を健保組合や共済組合が肩代わりすることという変則技を編み出した。肩代わり金額は、組合健保で750億円、公務員や私学教職員等の共済組合で250億円の見込みである。

 これについて、マスコミは、「サラリーマンの保険料は年間平均約5,000円増える」と報じた。これは簡単な計算で、健保組合の場合「750億円÷被保険者数約1,500万人≒5,000円」である。

 しかし、すべての健保組合等で、1人一律5,000円保険料が上がるわけではない。

 2006年度の決算を見ると健保組合で2,368億円の黒字、共済組合全体(国家公務員、地方公務員、私学教職員等)で878億円の黒字、計3,246億円である。そこから拠出すればいいし、組合健保と共済組合にはあわせて5.6兆円もの積立金等がある。これを取り崩してもいい。

 ところで、なぜ健保組合等は黒字であり、ここまでの蓄財を達成したのか。単純にいえば、保険料(収入)の割に給付費(支出)が小さくて済んでいるからだ。

 保険料は被保険者(国民)から徴収するもの。給付費は「医療費−患者一部負担」だから、医療費に比例する。給付費が少なくて済んだのは、医療費抑制の成果、医療機関の締め付けの結果なのである。

 つまり健保組合等の黒字は、国民と医療機関からの贈り物。保険者が苦しいときには、国民と医療現場が泣いた。国民と崩壊の危機にある医療現場を救うためにはその逆があってもいいはずだ。

 「所得の高い開業医がサラリーマンにツケを回した」というような報道もあったが、そのような見方も余りにも狭量だ。マスコミは、健保組合等の負担増ばかり書き立てた。マスコミ各社も健保組合の一員だからか、まったくの身内びいき報道であった。

■それにしても政管健保のていたらく

 それにしてもと言いたいのは、政管健保である。政管健保だって2006年度の黒字は1,117億円である。1,000億円肩代わりしてもらう必要がどこにあるのか。

 さらに、積立金に相当する事業運営安定資金が4,983億円(2006年度末)ある。しかも、社会保険庁が最悪のケースとして試算した結果を見ても、事業運営安定化資金は2008年度末に1,200億円残る。



 政管健保の保険料は、社会保険庁の人件費・経費・事業費にも使われる。そのために政管健保が支出したのは、2005年度951億円、2006年度969億円と18億円増加。歳出改革意識のカケラもない。まさか「消えた年金問題」の事務経費に回るのではあるまいが、お金に色がついていない以上、危うい話だ。

 政管健保(社会保険庁)は、「過大」ではなく、「節度ある」財政予測を行うべきである。そして、「肩代わり」の前に、まずは政管健保自らの襟を正すべきだ。

 もっと言うと、政管健保は、その保険料で社会保険病院を建て、タダ貸ししてきた。年金改革のドサクサにまぎれて社会保険病院改革の先行きがすっかり不透明になってしまったが、せめて賃貸料ぐらいとってはどうか。

 政管健保(社会保険庁)は、健保組合はじめ国民に、財政見通しをきちんと説明すべきである。そして、自らの歳出改革を徹底すべきだ。それが、今回の財源捻出劇に対する最低限の礼儀というものだ。

 いずれにしても、今後、保険者間の財政調整は必ず必要になる。この「肩代わり」がその第一歩となることを願っている。

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