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(掲載日 2005.11.14)
テーマ  診療報酬マイナス改定−−マジックはここだ
投稿者  日本医療総合研究所 取締役社長 中村 十念
 ここに「医療制度改革の論点」という資料がある。10月11日の財務大臣と厚労大臣の会談の際に、財務大臣が厚労大臣に突きつけたものである。大半は財政等審議会の建議書の焼き直しであり、建議書そのものが予算編成の指導要領のようなものなので、今更驚くことはない(財政等審議会のホームページ)。呆然とするのは、最後の部分である。肝のところなので、該当部分を掲載する。

4.医療サービスコストの縮減・合理化
医療費の約5割は医師等の人件費であり、この合理化を図ることは医療費にかかる負担の増加を抑えていくためにも重要な課題。
医療費の85%は公的財源(保険料・税)で負担。
  →公的部門全体の人件費の抑制の取組みの一環として、医師等の人件費についても厳しく抑制していく必要。
医療保険を持続可能なものとするため、国民に厳しい制度改正を求める以上、医療機関に対しても経費の縮減・合理化努力を求める必要。
近年、民間給与等が下がり続けてきた中にあって、その期間における診療報酬本体の改定率は、民間準拠により決定される人勧のマイナス幅と比較しても大きく乖離。今回の診療報酬改定ではこの乖離を是正していく必要。

→ 薬価の引き下げだけではなく、診療報酬本体についてもこれまでの民間給与等の動向との乖離を是正すべく厳しい改定にする必要

  これを見た人はまず人勧(人事院勧告)は相当厳しい内容で、国家公務員の給与は大幅に引き下げられたと思うに違いない。近年というのがどの位のスパンを指すのか良く分からないが、この10年間の人勧の内容は次のとおりである。

年度 人勧(%) 期末勤勉手当(月数)
1996 +0.95 5.20
1997 +1.02 5.25
1998 +0.76 5.25
1999 +0.28 4.95
2000 +0.12 4.75
2001 +0.08 4.70
2002 ▲2.03 4.65
2003 ▲1.07 4.40
2004 ±0 4.40
2005 ▲0.36 4.45

  この10年間で上がったのが6回、±0が1回、下がったのは3回である。ご存知かと思うが、人勧というのは国家公務員の給付テーブル表の改定幅のことである。国家公務員はほぼ全員が毎年昇格するので、実際に給与が下がるのは昇格後のテーブルが今のテーブルよりマイナスである人に限られる。2003年や2005年では、その改定率からみると給与が下がったのは、給与ランクの低い一部の人に限られたと思われる。

***

  さらにインチキ臭いのは2005年度では、いわゆる賞与の月数が0.05ヶ月分プラスされていることである。今年は国家公務員の給与は下がるどころか、上がっているのではなかろうか。診療報酬改定は、2002年▲2.7%、2004年▲1%であった。人勧は▲2.03%と±0である。見比べてわかるように人勧との乖離など何もないどころか、おつりをもらっても良いぐらいの話である。

  次に驚くのは、公的財源を使っているから、医療従事者の人件費を締め上げると明言していることである。わが国の国家財源規模は特別会計を入れると約250兆円である。これに地方財政を加えると300数十兆円の規模となる。一方、わが国のGDPは約500兆円である。このような経済・財政構造を持つ国で、公的財源と関わりのない産業などあるはずがない。産業連関の中でどこかで公的財源とつながっていると見るのが普通である。それに、医療従事者は真面目な労働の対価として給与を得ている。恵んでもらっているわけではないのは、他の業種と同じである。医療だけを狙い撃ちして、人件費を国家管理するというセンスは理解しがたい。

 衆院選での自民党圧勝は、財務省の支配強化という結果をもたらすのではないかと危惧したが、恐れたとおりの展開である。

***

 もうひとつは医療費の5割を人件費で使っているからけしからんと言わんばかりの言い方である。売上高人件費率の高低は、産業の特色を示すものであり、良し悪しではない。売上高の50%が人件費であったとしても、それは、医療が労働集約型の産業であることを示しているに過ぎない。

  2004年度の医科保険医療売上高は、約24.6兆円である。仮にその50%が人件費であるとすれば、その額は12.3兆円となる。医科の医療機関では約250万人が働いている。割り算すると1人当たりの人件費は約490万円である。人件費の中には法定福利費や退職金も含まれるので、その割合を10%とすれば、1人当たりの平均給与・賞与は約440万円となる。この額は、わが国の平均的な労働者の給与額とほぼ同じである。個々の医療機関が経営努力をするのは当然としても、国家権力を大上段にふりかざして、合理化を図れと叫ぶような水準ではない。

  今のように社会保障を切り刻む方法では、とても1,000兆円の借金の返済には間に合わない。社会保障を通じて所得の再分配を図った上で、社会保障の持つ経済波及効果と雇用効果を生かして、市場を活性化し、経済を発展させていくという別の選択肢もあり得るのである。国会議員や財務省の心ある方々には、その視点からの政策の立案を是非ご一考いただきたい。
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