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(掲載日 2005.12.09)
ランキング主義の危うさ
日本医療総合研究所 取締役社長 中村 十念
政府・与党の
「医療制度改革大綱
」(
概要>>
)が発表されたが、世間の反応は鈍い。患者負担の拡大と診療報酬マイナス改定という規定路線の繰り返しに終始したように見えるからであろう。
しかし、大綱には空恐ろしい地雷が埋められている。それは「ランキング主義」という地雷だ。例えば「医療費適正化の総合的推進」という項を見てみよう。まず、都道府県別に糖尿病患者の減少率と平均在院日数の地域目標が定められるそうである。つまり、糖尿病患者と平均在院日数による地域格付けがされる。その両方の数値が小さい程、優良地域という訳である。
次にこの減少率を競わされる。減少率ランキングのようなものが出てくるのであろう。
次には、医療費は糖尿病患者と平均在院日数の関数であるとして(そうかどうかは不明である)、都道府県別の医療費目標なるものを作成させられる。いよいよ医療費ランキングの登場となる。
***
国は、財政支援と人材を育成するというが、特に中身はない。ただ、ランキング熱を過熱させるだけの役割で済む。やらされるのは地方である。都道府県は医療や保健関連の部長職には厚生労働省からの出向者が多い。多分、彼らの出世も医療費ランキングによる評価次第ということになるであろう。
ムチの一方、アメも用意されている。「都道府県別診療報酬特例」というのがそれである。「よくやったところには診療報酬に色をつけてあげますよ、だから、お医者さんも頑張って」ということなのであろうか。販売キャンペーンの賞金扱いである。馬鹿にした話である。
ランキングといえば、「日本経済新聞」の十八番である。日経新聞の編集局はランキングさえ作っていれば、世の中すべてうまくいくと本気で思っているのではないだろうか。
今回の医療制度論議の過程では、日経の財務省寄りのフライングや誤報に近いミスリードが多かった。ネタをもらえるだけ親しいということであろうが、日経のランキング主義が医療政策に持ち込まれたとすれば悪い冗談である。
***
人間の病気には、その背景にいろいろな要素が絡んでいる。ランキングという表層的なものが解決の手段になるほど単純ではない。職場の病欠減少率ランキングのようなことを考えれば、すぐにわかる。そのようなことで職場が評価されるようなことになると、病気でも休めないとげとげしい雰囲気になることは誰しも想像できる。
医療費についても然りである。地域の歴史や社会構造、あるいは他の経済と密接に結びついているのである。日経のランキングが囃し立てた企業が必ずしも良い企業だった訳ではあるまい。医療費で好ランキングをとったからといって、良い地域とは限らないのは、それと同じである。
ランキング主義的政策に医師は協力すべきではないと思う。ましてや、人を金で釣るような話には職業倫理の面からも妥協してはいけない。すぐにでも非協力宣言を出して、政府と対峙することが必要なのではあるまいか。
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