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(掲載日 2006.03.3)
韓国ES細胞捏造事件の闇の奥
(Heart of Darkness)
<連載1> 「朴氏はどこにいった?」
―「国家主導の生命工学の悲劇」その後―
澤 倫太郎
日本医科大学生殖発達病態学・遺伝診療科 講師
年末に本サイトに拙稿「
国家主導の生命工学がもたらした悲劇−バイオ・コリア国家プロジェクトのひとつの帰結−
」
(*筆者注)
が掲載されてから、2ヶ月強が経過した。そして、この稿がサイトにアップされる時点では、その後も迷走を続ける韓国国内の状況と、それを揶揄するわが国の反韓ブロガーたちも、落ち着きをとりもどしているだろう。
しかし、この騒動は不可思議だ。研究者の情熱とメンタリティに国境はないと信じて、第3者的に鳥瞰して眺めれば眺めるほど、どうしても腑に落ちない点が多すぎるのである。勘のいい本会の会員の多くからも、拙稿の記述について「あれはどういう意味か?」という疑問もいただいた。そこで、本稿では前稿では伝えきれなかった情報と、現在にいたるまで、いまだに明らかにされない謎を、いま一度検証してみようと思う。
韓国メディアの3大紙といえば、中央日報、朝鮮日報、東亜日報である。この3紙の邦訳電子版は今回の事件のせいでさぞやヒット数を稼いだことだろう。しかし純粋な表音文字としての機能を集約させたハングル文字を邦訳するのにあたって、一番大変なのが漢字変換で、なかでも困難を極めるのが人名である。
拙稿でも指摘したように、2004年のサイエンス誌の実質的な技術面の柱は胚培養士(エンブリオロジスト)の「朴ウルスン」氏である。ウルスンという人名はいまだに漢字変換ができないままだ。人名を漢字で書き記すとき、伝わる重要な情報のひとつがジェンダーである。それゆえに1つの混乱が起きているようだ。「朴ウルスン」氏は女性である。
世界で初めてクローンES細胞を樹立したとし、世界中の科学者を驚かせた論文の第4共著者である彼女は、黄教授に最初に卵子提供を申し入れたとされる研究員でもある。採卵を行うために黄教授と連れ立って研究協力機関であるミズメディ病院に向かったというエピソードは韓国3大紙にも所謂「パワー・ハラスメント」を象徴する出来事として報道された。
2004論文発表時に、その朴氏の技術を絶賛したのが、米ピッツバーグ大学教授のジェラルド・シャッテン氏であった。そしてネイチャー誌が最初の疑問を提示するなか、彼女を含めた3人の韓国研究者たち(朴ウルソン氏、金ソンジョン氏、朴ジョンヒク(朴鍾赫)氏の3名)は、ピッツバーグ大学の研究所に留学したのだ。
今回の捏造事件の捜査を担当するソウル中央地検・特捜チームは、そのうちの1人のミズメディ病院所属の金ソンジョン氏こそ、捏造の主犯格である、との判断を示している。金ソンジョン氏への容疑は、培養細胞株のすり替えである。彼は、朴ウルソン氏の技術によって核移植したヒト胚の培養担当責任者で、細胞分裂能力が衰えるたびに、ミズメディ病院に細胞を持ち出して、あらかじめ用意しておいた受精卵由来のES細胞にすり替えていたとされている。
黄ウソク教授がこのカラクリを把握していたかどうかはいまだ謎のままだ。しかし金氏の病院の同僚で、同じく細胞株のすり替えにかかわったとされる朴ジョンヒク研究員を含め、疑惑の中心と目される3人の研究員の国外留学は、何らかの意思が働いていたと勘繰られても仕方のないところだろう。さらに金ソンジョン氏に関しては、昨年11月に金氏が「その罪の大きさに耐えられず」服毒自殺をはかったという疑惑が報じられ、そのことこそ捏造に確実にかかわっていた証左とされている。
こうして捜査が順調にすすむなかで、なぜか事件の核心を知ると思われる肝心の朴ウルスン氏の召喚は遅々として進んでいない。東亜日報は1月25日には朴氏が帰国すると報じ、2月2日付でソウル中央地検の調査に他の研究員とともに「出席」したとする記事を載せて以来、現時点(3月3日)まで、後追いの報道をしていない。彼女はどこへいったのか?
そして、研究者たちが最も疑問に思うのは、黄教授が、自身の捏造がわかっていながら、なぜ幹細胞の国際ハブなど作ったのか?ということである。なぜなら提供ES細胞が体細胞クローン由来ではないことは、隠しようがないからだ。「こんな単純な論理破綻を、かれほどの切れ者が犯すはずがないのだが……」と研究者仲間は首を傾げるのである。
考えられる選択肢がひとつだけある。それは、「黄教授は世界中の研究者たちに『なにか』を伝えようとしたのではないか?」ということだ。その「なにか」とは――。
*筆者注
年末に本サイトに寄稿させていただいた韓国ES細胞の捏造騒動に関する拙稿は、思わぬところで反響を呼び、
岩波書店の「世界」
3月号にも筆を加えた稿が掲載された。
*タイトル解説
「
闇の億
」
イギリスの作家コンラッドの代表作。アフリカの貿易会社に勤める主人公マーロウは、消息を絶った象牙商人クルツを探索するために密林を流れる河をさかのぼる。しかし主人公が目にしたのは、密林の奥で奇怪な独裁国家を築いていたクルツであった。この物語を最初に映画化しようと試みたのはオーソン・ウェルズ。1979年に物語の設定を戦時下のヴェトナムに移し、「地獄の黙示録」で映像化に成功したのは異才フランシス・フォード・コッポラである。
<連載2> 「『アイ・ラブ・黄ウソク』の裏側」 に続く >>
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