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日本医療総合研究所 主席研究員 工藤 高 |
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2006年マイナス診療報酬改定は「患者の視点」を錦の御旗として実施された。ところが、リハビリテーションの「算定日数上限」設定をめぐって、その患者自身の視点からの新聞投書をきっかけに社会問題化したのは皮肉な話だ。その発端は主治医から180日超のリハビリ中止を宣告された東大名誉教授、多田富雄氏の4月8日付け朝日新聞「私の視点」欄に掲載された「リハビリ中止は死の宣告」と言うタイトルの寄稿だった。
これに対し、厚労省保険局の麦谷医療課長は6月10日の講演で「日数上限は2年かけて実態調査をやって80%が100日以内に収まっていた」として「免疫学者の多田先生がメディアで発言されているが、必要なリハはできる制度になっているはず」(医療タイムス誌6月26日号)と述べている。たしかに多田氏の状態である脳梗塞後遺症による片麻痺は、4月28日付け厚労省疑義解釈で「(医師が)治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合は算定日数上限の適応除外になる」とされている。
しかし、この解釈が明らかになったのは、新点数が運用されて約1ヵ月後の4月末であった。実は、筆者は3月中旬頃にインサイダー情報として、脳卒中後遺症の算定日数除外という可能性は聞いていた。多田氏の指摘以前から厚労省内で検討されていたのは間違いないが、整形外科領域における関節変形性疾患は150日、呼吸器領域のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は90日という算定日数上限は現在でも継続しているため、必要なリハビリが受けられない患者が存在する本質的な問題点は何ら解決されていない。
厚労省は算定日数上限のエビデンスは、同省高齢者リハ研究会がまとめた報告書にあると説明する。その報告書では(1)急性期リハが不十分、(2)長期間にわたって効果が明らかでないリハが行われている、という2つの項目を掲げた。
(1)については、「急性発症等のリハは1日6単位(1単位20分)最大2時間上限」だったところ、今次改定で「9単位上限最大3時間」に拡大されたことは大いに評価して良い。4年前に筆者が見学したハワイの回復期リハビリ病院では、入院の条件が「“最低”3時間以上のリハビリに耐えられるモチベーションを持った患者」であった。日本も、やっと「太く短い」アメリカ並みのリハビリ提供体制になったわけだ。急性期、回復期に手厚いリハビリを行うことでアウトカム(治療成果)が高まることは多くのエビデンスがあるが、そのバーターとして出てきたのが、(2)に係る算定日数上限の設定だった。
たしかに、保険点数のために効果が明らかでないリハビリが行われていた事実が、医療現場で全くなかったとは言えない。しかし、そのようなモラルハザード(倫理の欠如)が発生する可能性が比較的高かった集団リハビリ療法は今次改定で廃止され、「セラピスト1対患者1」の個別療法だけになった。
また、施設基準要件は強化され、人員配置要件も厳しくなった。このため、明らかに効果がないと思われるリハビリを数多く実施することは、ほとんど不可能となった。その上でさらに、全てのリハビリに対して一律に算定日数上限を設定することは、本末転倒である。そのような性悪説に基づくリハビリ実施医療機関には個別指導やレセプト審査を強めていけばいい。
今回のリハビリ算定日数上限は、2002年改定時にマイナス財源確保のため強引に導入され、一物多価として問題にとなった再診料逓減制同様、次回改定を待たずに即刻廃止すべきだ。もう一度、多田氏のような患者の視点と医療現場の医師やセラピスト等の意見を集約して、それに対してきちんと説明責任を果たすことが厚労省に必要ではないだろうか。医療は霞ヶ関ではなく、現場で起きているのだから。
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