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医療法人社団高村内科医院 理事長 高村一郎
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この文章を書いている7月15日の時点では、特定健診の結果報告書兼請求書が国保連に受け付けられ、さらに国保中央会にも受理されているケースは全国でもほとんどないと伺っています。
鳴り物入りで、しかし唐突に開始された新しい健診制度は、老人保健の基本健康審査の代りとなるはずでした。これまで基本健康診査制度は十分に機能し、市民に気付かれていなかった様々な疾患を発見する機会を与えてきました。それが特定健診という新たな仕組みに置き換えられた結果、機能停止に陥りました。
問題は非常に敷居の高い“IT化された報告書”を提出しなければならない点にあります。このため、ごく一部の限られた医師だけしか自力で報告書を保険者に提出することができません。私にはできませんし、ほとんどの医療機関にも無理です。
厚労省は代行業者に委託して健診報告書をCD−ROMに書き込んで提出するよう求めています。こうして我々は健診機関になろうとするならどうしても代行業者に委託せざるを得ない状態を強制されてしまいました。
これは医師の守秘義務に真っ向から抵触する事態ではないでしょうか。代行業者がしっかりした契約を結び、情報を漏らさないことを約束していただくのは当然のことです。
しかしそれは確実には担保されないのです。従来IT産業から顧客の情報などが漏れだしているのは周知のことです。また悪意でなくとも漏れざるを得ない場合もあるかもしれません。
代行業者が倒産した時に健診データはもっともおいしい資産となります。もしこれらの健診データが人々の健康状態を商売のタネにする業者にわたったら、守秘義務はどうなるのでしょう。
そもそも厚生労働省は法を遵守する責任があります。また国が進める政策が、末端の実働部隊である我々医療者に、違法行為を犯させるようなことがあってはなりません。今年度導入された特定健診制度はそもそもの成り立ちから大変危うい仕組みを内包していると言わざるを得ません。
忙しい外来の中で健診を受ける一人一人の患者さんに「お国の強制する仕組みにしたがい、心ならずもあなたの非常にデリケートで個人的な情報を丸ごと第三者に引き渡すつもりですがようございますか」などと説明し、了解を頂くことは不可能でしょう。
そうでなくても、特定健診となってから、面倒になった書類を揃えるだけで我々医療機関はすでに大変な手間を要しているのです。
図らずも特定健診制度は出だしから躓きました。がんばって報告書を提出したところも、突き返されてしまう事態が全国で続出しています。
実際に特定健診が始まった地域でも実施率は伸び悩んでいるようですし、まだまだ準備中の地域の方が多いのではないでしょうか。中央会と国保連の足並みもそろっていません。また全国各地の国保連もまちまちな対応をしています。
準備不足で始まり、混乱を極めている特定健診は一度中断して、さまざまな側面から安全性、整合性、実現可能性などを検討して出直すべきでは無いでしょうか。
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