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(掲載日 2009.01.09)
大学病院の機能を国民はどう位置づけるのか
投稿者 北海道在住 江原朗
 平成21年1月7日の読売新聞では、「東北大病院が残業代不払い、260人に5500万円」との記事を報じている。もはや、大学病院であっても、労働基準法の厳格な規制をうけるようになってきた。

 しかし、十分な予算の配慮無しに研究・教育・診療の3部門を大学病院に負わせてよいのだろうか。以下の通達によって、大学は手足をがんじがらめに縛られているのである。

1)いわゆる「医局による医師の派遣」と職業安定法との関係について(職発第1004004号 平成14年10月4日 厚生労働省職業安定局長通知

 本人が同意しない医局人事を職業安定法違反(労働力供給事業)とした。たしかに、不透明な人事は良くないことではある。しかし、100万円以下の罰金または1年以下の懲役を課せられる危険があることは、医局長や主任教授などの大学関係者にとって大きなストレスであると思われる。

2)医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進及び診療に従事する大学院生等の処遇改善について(20文科高第266号、平成20年6月30日、文部科学省高等教育局長通知

 大学院生が診療行為を行う場合には、雇用契約を結ぶよう文部科学省が通達した。さらに、雇用契約の実施状況を平成20年10月に調査している。雇用契約により、診療の主力となっている大学院生も労働者と判断される。

 したがって、大学院生も労働者として、労働時間の管理、時間外等の割増賃金の支払いなどを受けることになる。こうした人件費の上昇は、大学の経営を圧迫するものと思われる。

 なお、裁量労働制により労働期間の管理が事実上免除されるのは、教授、助教授、講師に限定される(「労働基準法施行規則第24条の2の2台6号の規定に基づき厚生労働大臣の指定する業務を定める告示の一部を改正する告示の適用について」の一部改正について(基発第0215002号、平成18年2月15日、厚生労働省労働基準局長通知)。したがって、労働時間の管理を受けない医師は、大学病院においては、極わずかにすぎない。

3)臨床研究に関する倫理指針質疑応答集(Q&A)の周知について(医政研発第1226001号、平成20年12月26日、厚生労働省医政局研究開発振興課長通知

 「第2 研究者等の責務等 A2-4:補償内容としては、既に治験において実績があると考えられる医薬品企業法務研究会(医法研)が平成11 年3 月16 日に公開した『医法研補償のガイドライン』程度の内容であれば問題ないと考えられる。

 なお、重篤な副作用が高頻度で発現することが予想される抗がん剤等の薬剤については、補償保険の概念に必ずしも馴染まない場合も想定される。

 このような場合には、臨床研究で使用される薬剤の特性に応じて、補償保険に限らず医療給付等の手段を講じることにより実質的に補完できると考えられますので、実際の補償に係る方針や金銭的な事項について被験者に対して予め文書により説明し、同意を得ておくことが必要だと考える。」とある。

 つまり、治験の際には病院自らが副作用等の医療給付を行う必要もあると考えられる。

 大学院生をはじめとして、雇用契約を行う医師数の増加、労働時間管理の厳格化、医局人事への職業安定法による監視、治験における医療給付の必要性など、法の規制のもとで大学病院を取り巻く経営環境は大きく変化している。

 大学病院を医師養成機能だけに限定するのか、あるいは、世界をリードする研究機関および診療機関として位置づけるのか、費用負担の問題も含め国民的な議論を巻き起こす必要がある。
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