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(掲載日 2009.01.09)
米国大統領就任演説から日本の医療を考える
投稿者 東京都在住 坂口一樹
 2009年1月20日、バラク・フセイン・オバマ第44代米国大統領が誕生した。私も同盟国に住む一国民として、今日の経済的混迷の一刻も早い打開と国際社会における不毛な紛争の一刻も早い終結に向けた新しい大統領のリーダーシップに期待してやまない。

 さて、その恐らく歴史に残るであろう就任演説を聞いて、次のようなフレーズが印象に残った。

The question we ask today is not whether our government is too big or too small, but whether it works. 訳:今日(の経済的混迷に直面して)われわれが問いかけるのは、政府が大きいか小さいかではない。政府が機能しているかどうかだ。

 なるほどそれはそうだと思った。壊れたシステム(政府)にいくらお金(税金等)をかけるかを議論しても仕方がない。

 わが国の医療を含む社会保障について論じる際も、政府の大小についてはしばしば論じられる。例えば、「これからの日本は、北欧型の高負担だが社会保障が充実した社会を目指すのか、米国型の低負担だが自己責任の社会を目指すのか、方向性を決めなければならない。」などといった議論がそうだ。(そして、こういう議論は現場を知らない学者先生や学生連中が大好きだ。)

 だが待って欲しい。政府の大小の是非を論じる前提は、今現在、政府がシステムとしてちゃんと機能しており、今後もそうであろうということだ。私たちは、政府というシステムがちゃんと機能していると、そんなに無条件に信頼してもよいものだろうか。

 危機に直面して、まず問われるべきは、政府という私たちのシステムが信頼に足るくらい機能しているかどうかではないか。検証して、そうでなければ、真っ先にやるべきことは、私たちの手で、そのシステムを機能させることだろう。

 話を日本の医療に絞ろう。医療危機に直面して、政府は機能しているのか。まずは、その検証から始めるべきではないだろうか。

 消費税を引き上げて医療の財源にする皮算用をする前に、健康保険料の引き上げの是非を議論する前に、公的保険の支給範囲や負担割合の大小を検討する前に、私たちにはやるべきことがある。

 では、まず、具体的に、何をしたらよいか。

 出発点は、医療における政府の責任と権限をきちんと規定することだと思う。政府の責任と権限が明確でなければ、機能しているかどうかを測れないからだ。

 「医療基本法」の制定に向けた動きが昔からあるが、その方向性が「医療における政府の責任と権限をきちんと規定し、それが機能しているかどうかを測る基準とする。」ということならば賛成だ。

 重要なのは、私たちの医療の理念とその実現のために政府が果たすべき責任と権限に関するルールを、私たち自身の手で作り上げることである。

 ただ、その際に気をつけなければならないのは、議論が医師個人のプロフェッショナル・フリーダムを制限する/しないに向かうと、話がややこしくなることだ。先日のYahoo! ニュースのトップ記事にあったこのような現場の医師たちの反応がいい例だ。

 医師不足・医療崩壊問題の本質は、現場の医師が応召義務を果たしているかいないかではなく、医療における政府の責任と権限の所在が曖昧なことにある。

 それ曖昧さゆえに現場は戸惑い、ある者は静かに現場から立ち去り、ある者は今日も身を呈して現場を支えている。問題なのは、私たちが、政府の責任と権限の所在を曖昧なまま放置してきたことなのだ。

 医療危機に直面して、私たちは、「この国の医療の理念とその実現のための政府の責任と権限は明確であり、それが機能している。」と言えるのか。今、このことこそ本質的に問われなければならない。
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