www.senken.net サイト内
web全体
メニューの表示にはjavascriptを使用しています。
javascriptの使用をonにしてリロードしてください。
<< トップへ戻る
医療メカトロニクスバックナンバー一覧へ >>
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第2回
『レントゲン』
最終連載 ―
「放射線の影響(その2) ―被ばく線量と人体への影響の関係―」
(掲載日: 2007.04.06)
<< 連載4 ― 「 放射線の影響(その1) ―人体への影響の分類―」
X線撮影時に浴びる放射線は、日本では10ミリグレイ(mGy)を超えることはありません。この値を参考にしながら各影響を見ていきましょう。
ミリは1,000分の1ですから、10ミリグレイ=0.01グレイになります。
1.早期影響
早期影響は、すべて「確定的影響」ですので、ある線量以下ではその障害が発生することはありません。
主な障害は、急性皮膚障害、造血機能障害などです。
皮膚の紅斑や脱毛は、3グレイ以上の放射線を受けると発生します。血液のリンパ球は、0.5グレイで一過性に減少します。全身急性被ばくの場合、当然、全身の臓器にも影響が出現し、1グレイ以上の照射では嘔気・嘔吐・脱力感などが出現します。さらに大量の放射線を浴びた場合には、死亡に至ることもあります。
「急性放射線症」(
表2
)とは、全身あるいは身体の比較的広い範囲に短時間に被ばくした場合に発生する症状です。1グレイ以上の大量の放射線を被ばくした場合に発生し、それによる死亡を「急性放射線死」と言います。
死因となる臓器により、中枢神経死(数10グレイ以上)・腸死(5グレイ以上)・骨髄死(3グレイ以上)に分けられます。
どの障害もしきい値がX線撮影と比べてけた違いに大きく、普通の検査で障害が発生することはありません。
2.晩発影響
主な障害は、(1)白内障、(2)胎児の奇形や精神発達遅滞、(3)がんと白血病・遺伝性疾患です。
(1)と(2)は「確定的影響」、(3)は「確率的影響」になります。
(1)白内障
2グレイ以上で発生すると言われています。
(2)胎児の奇形や精神発達遅滞
しきい値は0.1グレイです。妊娠中にX線撮影を行った場合、腰椎のX線撮影でも0.01グレイ、骨盤のCT撮影でも0.079グレイとしきい値には及びません。胸部X線撮影に至っては、0.00001グレイと、胎児は非常にわずかな放射線しか浴びません。腹部から離れた部位の撮影では、腹部に当たる放射線はごくわずかです。懐中電灯の光は、光を当てた部分しか明るく照らさないのと同じです(図8)。
(3)がんと白血病・遺伝性疾患
これらは確率的影響ですから、確定的影響と違い、この値以下なら安心というしきい値は存在しません。放射線を浴びればがんや白血病になるリスクは高くなります。しかし、これまでに行われてきた疫学調査では、0.2シーベルト(200ミリシーベルト)以下の線量の場合は、白血病やがんになるリスクが有意に増加することは認められませんでした。
遺伝性疾患は、子供を作る可能性がある人が生殖腺に被ばくした際に発生すると考えられます。しかし、低線量の放射線を浴びたことによる遺伝性疾患の発生は統計的には検出されていません。
動物実験からの推定によれば、放射線被ばくがない場合に発生する遺伝的影響と同程度に遺伝的影響を発生させるには、1グレイの被ばくが必要とされています。
通常のX線検査では、生殖腺を含む部位(下腹部)を撮影したとしても、生殖腺の被ばく線量は非常に低く抑えられます。胸部X線撮影の場合では、X線は検出できないほどの量しか生殖腺に当たりません(表3)。
3.放射線障害と被ばく線量の関係
放射線障害と被ばく線量の関係を調べるために多くの疫学調査が行われてきました。その中には広島・長崎の原爆被ばく者を対象にした疫学調査も含まれています。この調査は対象者数が圧倒的に多く、追跡期間も非常に長いものでした。これらの調査結果をもとに放射線防護規準は定められています。
レントゲン撮影と放射線障害についてすごく簡単に言ってしまえば、通常のX線撮影の線量で放射線障害が出現することはまずないということです。
仮に低線量のX線を浴びた後に、白血病やがんになった人がいるとします。しかし、その原因は低線量のX線を浴びたせいだとは言えない可能性が高いということです。前述の自転車の話で言えば、自転車に乗らなければ交通事故にあわないのでしょうか?いいえ、歩いていても車に乗っていても交通事故にあうことはあります。
「被ばくの影響が怖いから、X線検査を絶対に受けない」というのは、「事故にあうのが怖いから、絶対外出しない」のと同じように思えます。
<POINT!>
※
X線撮影に使われる低線量の放射線は、必ずしも放射線障害が出現する原因とはならない。
■おわりに
X線検査においては、確定的影響を出さない線量で検査を行うことが大前提です。有意な影響は認められていないとはいえ、確率的影響の可能性はゼロにはなりませんので、「必要最低限の検査で済ませるようにする」ことが放射線防護の基本になります。
また、国際的な組織としては国際放射線防護委員会(ICRP)が放射線防護の考え方や基準値などを検討し、勧告を行っています。わが国もこの勧告を基に、放射線防護基準が策定されています。
患者さんには、X線撮影に嫌悪感を持たず、必要な検査はきちんと受けていただきたいと思います。そのためには、医療従事者からの適切な説明が必要になることは言うまでもありません。
今回は、レントゲンについて書き進めてきました。多少難しい部分もあったと思いますが、皆さんの理解の助けになれば幸いです。
◆参考文献◆
1)
『あなたと患者のための放射線防護Q&A(改訂新版)』 草間朋子著.医療科学社,東京,2005.
2)
『新しい高校物理の教科書』 山本明利,左巻建男(編著).講談社,東京,2006.
3)
『放射線医学物理学』 西臺武弘著.文光堂,東京,2006.
4)
財団法人 電気安全環境研究所ホームページ
メニューの表示にはjavascriptを使用しています。
javascriptの使用をonにしてリロードしてください。