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医療機器メカトロニクス
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第3回 『体温計』  
連載1 ― 「体温調節のメカニズム」
(掲載日: 2007.04.13)
 体温計とは、文字どおり体の温度(体温)を計測するための医療機器です。

 普通の人がもっとも多くかかる病気はなんと言っても風邪。風邪をひけば熱があるかどうか気になりますから、どの家庭にも1本はあると思います。

 最近では、「水銀体温計」をあまり見かけなくなりました。代わって登場したのが、「電子体温計」。測定時間は、水銀体温計は5〜10分ほどかかりますが、電子体温計は数十秒です。ちなみに、「耳式体温計」の場合はわずか数秒。技術は進歩し、体温計もずいぶん便利になってきています。

 この連載では、まず体温調節や発熱のメカニズム、次に体温計が体温を測定する原理について解説していくことにしましょう。

1.体温もいろいろ

 体温と一口に言っても、全身が同じ温度ではありません。手足の体温は、寒い所では冷たくなり、暑い所では温かくなります。このように四肢は、環境によって温度を大きく変えます。

 一方、脳や内臓はその温度をほぼ一定に保っています。脳と重要臓器部分を「核心部」、その温度を「核心温」と言います。核心温が正常値から大きく離れると、体の機能が正常に働かなくなって死んでしまいます。人間の生命活動にとって、核心温を一定に保つことは非常に大事です。ですから、体温と言う場合は、たいてい核心温のことを指しています。

2.体温調節のしくみ

 人間には、体温を調節するすばらしいメカニズムが備わっています。

 人間は、食物を代謝することでエネルギーを作り出しますが、体の機能のすべてを動かすためのエネルギーとして使われるのは20%で、80%は熱に変わります。一方、体の表面からは、その環境に応じて熱が放散されていきます。

 体の熱産生と熱放散の熱量が等しければ、体温は一定に保たれることになります。人間は、このバランスをうまくとって体温調節を行っているために、体温は生まれてから死ぬまで37度付近で推移し、数度以上変化することはほとんどありません。

 人間の体温調節機能が非常に優れていることは、気温40度を超える砂漠からマイナス40度の極地まで、地球上のあらゆる場所に生息できていることからも分かります。

 では、その体温調節機能はどうなっているのでしょうか?

 大きく分けて2つの調節法があります。「行動性体温調節」と「自律性体温調節」です。

(1)行動性体温調節

 皆さんは、外出するとき「今日は寒そうだな」と思ったらどうしますか?

 厚着をして出かけますよね。暑ければ、クーラーを入れたり、服を脱いだり。これが行動性体温調節です。

 人間は、積極的に自身の周りの環境を変えることによって体温を調節しています。行動性体温調節は、恒温動物、魚やは虫類などの変温動物にも見られますが、日向に出る、日陰に引っ込むくらいで、人間の環境適応能力にはとてもかないません。

(2)自律性体温調節

 行動性体温調節を行ってもうまく体温が調節できなかったら、あるいは行動性体温調節を間違えたら、次は自律性体温調節の出番です。

a) 寒いとき: 皮膚の血管を収縮させます。これにより、血液は体の中の比較的深いところを流れることになります。つまり、体の中心より流れてくる温かい血液の熱が皮膚表面で奪われるのを防ぐ(熱放散を少なくする)わけです。
 これでもまだ寒い場合は、筋肉の運動によって熱の不足を補います。体がブルブルとふるえるのは、無意識のうちに骨格筋が収縮を繰り返して、熱を産生するためです(=ふるえによる熱産生)。これ以外にも、褐色脂肪組織と呼ばれる脂肪が熱を産生します(=非ふるえによる熱産生)。
b) 暑いとき: 皮膚の血管を拡張させて、熱の放散を促します。十分に体温が下がらない場合は、発汗が起きます。汗が蒸発するときに熱が奪われ、体温を下げます。手を濡らして、うちわであおいでみてください。ヒヤッと冷たい感じがしますよね。この効果です。ほかの哺乳動物と違って毛皮で覆われていない、発汗ができる人間は、より高温の環境下でも適応する能力があります。

<POINT!>
人間は、ほかの動物には見られない高度の行動性体温調節を行っている。
自律性体温調節の働きにより、体内の「熱産生」と「熱放散」のバランスが保たれ、体温は一定に調整されている。

 人間はこのような機能を駆使して、体温をほぼ一定に保っています。では、その体温が上昇してしまうとき、体の中ではいったい何が起こっているのでしょうか。

 次回は、発熱について書いてみたいと思います。
  連載2 「発熱のメカニズム」 >>
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