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病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第3回
『体温計』
最終連載 ― 「体温計の原理(その2) ―耳式体温計―」
(掲載日: 2007.05.04)
<< 連載3 「体温計の原理(その1) ―水銀体温計、電子体温計―」
最近、短時間(数秒)で体温が計測できる耳式体温計が販売されています(図3)。
耳式体温計は、人体から放射される赤外線をセンサーで検出(キャッチ)し、マイクロコンピュータが体温を算出します(参照:捕足1)。
耳の中を使うのは、鼓膜とその周辺から放射されている赤外線を測定するためです。鼓膜の温度は、鼓膜が耳の奥深くにあるため外気温などの影響を受けにくく、また脳のすぐ側にあって温度が一定しているので、「核心温」に近いと考えられます。
数秒で体温を測れるのはすばらしいことなのですが、耳に挿入する向きや深さ、耳垢がたまっているなどが原因で測定値にばらつきが生じやすい面もあるようです。どの体温計にも言えることですが、測定値がおかしいなと思ったら、数回測定してみるほうがいいかもしれませんね。
●捕足1 「なぜ赤外線で温度が分かるのか?」
赤外線は電磁波の1種です。ここでは深く触れませんが、電磁波にはその波長の短い順に、γ線・X線・紫外線・可視光(目で見える光のこと)・赤外線・マイクロ波などがあり、それぞれいろいろな性質を持っています。
赤外線は絶対零度(−273度)以上の物体すべてから放射されていて、物を温める性質があります。つまり、赤外線は炭火などの温かい物からだけでなく、氷からでも放射されています。放射される赤外線の量は絶対温度(絶対零度を基準とした温度。単位はケルビン)の4乗に比例します。
炭火の場合は1000度近い高温にもなると言いますから、その放射による熱によって肉や魚がおいしく焼けるのも納得です。太陽もいい例です。太陽と地球の間は真空で空気がありませんから、熱伝導や対流(参照:捕足2)ではなく、この放射によって熱を伝え地球を温かくしています。こういった赤外線による熱の移動を「放射」と言います。
●捕足2 「対流」
熱の移動方法には、前述した「伝導」と「放射」のほかに「対流」があります。
温まった空気や水は上昇し、温度の低い空気や水は下に沈みます。例えば、お風呂のお湯を下から温めると、下の温かい水が上昇し、上の冷たい水が下に降りてくる、この動きにより、やがてお風呂全体の温度が上昇します。この熱移動を対流と言います。
ここで疑問が出てきませんか?
なぜ温かい水や空気は上に移動するのでしょうか。これは、膨張のためです。膨張により逆に体積当たりの重さ(密度)は軽くなります。軽いもの(温かい水や空気)は浮力によって上昇し、入れ替わりに重いもの(冷たい水や空気)は下降します。
人間も「伝導」「放射」「対流」によって周囲の環境と熱交換をしながら、体温を調節しているということです(図4)。
<POINT!>
※
耳式体温計は、人体から放射される赤外線を測定する。
※
熱移動には、大きく分けて「伝導」「放射」「対流」の3種がある。
■おわりに
体温および体温計の話をしてきましたが、いかがでしたでしょうか?
正確な体温を測定するためには、いろいろな注意点があります。
○
運動後に測らない(筋肉からの熱産生で体温が上昇しているため)
○
寒い外から室内に入っていきなり測定しない
○
わきの汗を拭いてから測る(水が蒸発するときに熱を奪い温度が低めになるため)
、などなど。
しかし、体温計の値に一喜一憂し、神経質に何度も測ったりする必要はありません(もちろん排卵日を知るためなどに、毎日基礎体温をつけるときは注意が必要ですが)。本当に状態の悪い患者さんの場合には、わずかな測定誤差など関係なく熱は上昇しています。
医師が病気の診断をする際には、体温は一要素にすぎず、頭痛や咳、鼻水、おなかが痛くないかなど、あらゆる情報から総合的に判断しています。
ですから、体温は健康状態のバロメーターのひとつと考えて気軽に測定してください。そして、ぐあいが悪いときには必ず医療機関を受診するようにしましょう。
◆参考文献◆
1)
『標準生理学』 本郷利憲、ほか,医学書院,東京,2005.
2)
『Newベッドサイドを科学する―看護に生かす物理学』 平田雅子,学習研究社,東京,2000.
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