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医療機器メカトロニクス
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第7回 『血圧計』  
連載4 ― 「血圧のしくみ」
(掲載日: 2007.09.28)
<< 連載3 「流体の圧力(動圧と静圧)」
1.血圧と健康

 そもそも、なぜ血圧を測る必要があるのでしょうか?

 それは血圧が人間にとって、生きている重要な証の1つだからです。血圧・脈拍・体温・呼吸の4項目はバイタルサイン(vital signs)と呼ばれ、日本語に直訳すると「生命兆候」と言います。

 バイタルサインは、目の前の患者がどんな状態にあるかを把握するための簡便で有用な項目です。呼吸は呼吸音を聞き、胸郭の動きを視ることで分かります。体温は触れれば温かいのか冷たいのか分かります。血圧や脈拍は頸動脈(頸部)や大腿動脈(そけい部)、とう骨動脈(手関節)を触れることにより分かります。この4項目が正常でなければ、何かしらの異常があると考えてよいでしょう。

 医学の発達に伴い、人類はそれぞれの値を数値化することを試みてきました。血圧計は、血圧を数値化するためのツールです。数値化することで、高血圧の病態が分かってきました。高血圧とその先にある疾患(心疾患・脳卒中など)との関連が分かってくるに従い、「血圧コントロール」は健康な生活を営むための非常に重要な因子になってきています。

2.血圧の発生

 では、現在の医学では血圧はどのように考えられているのでしょうか。生理学という基礎医学の分野から血圧の具体像に迫りたいと思います。

(1)血液の循環

 血圧は、人間の循環系に関する基本的な物理量の1つです。「循環系」とは、血液を巡回させる回路です。別名を「心臓血管系」とも言い、心臓と血管から構成されています。体の各器官に酸素や栄養を供給する一方、不要になった代謝産物を受け取るといった輸送機能を果たしています。図8に模式図を示します。

 心臓は、左心と右心に分かれています。左心から出た血液は、体を巡って酸素や栄養を全身に供給します。右心から出た血液は、肺で二酸化炭素を放出し酸素の供給を受けます。左心から出て全身を巡り右心に戻る経路を「体循環系」、右心から出て肺を経て左心に戻る経路を「肺循環系」と言います。

 ところで、動脈の血液は酸素を含んでいるというイメージがありますよね。では、全部の動脈が酸素を豊富に含んでいるのかというと、そうではありません。

 右心から出た動脈(肺動脈)は、肺を通過する前の血管ですから酸素は少なくなっています。その逆に、肺から出て左心に戻る静脈(肺静脈)は、酸素を豊富に含んでいます。心臓から出る血管が「動脈」、心臓に戻る血管が「静脈」と定義されるのであって、酸素を多く含んだ血管を動脈と言うわけではありません。

 図8では酸素をたくさん含んだ血液を赤色で、酸素が少ない血液をグレーで表現していますが、実際の肺動脈は赤く、肺静脈は青くなっています。

(2)血圧の変動

 前述のように、肺循環は体循環とはちょっと違う循環なので、心臓と肺循環をまとめて心肺部とした新しいモデルを考えます(図9)。全身を巡った血液は心肺部に戻ってきて酸素を豊富に含み、また全身へ向かうというモデルです。

 心臓は、定期的に収縮と拡張を繰り返し、体の中に血液を送り出すポンプです。動脈の血圧は、心臓が収縮するときに最も大きくなり、このときの血圧を「収縮期血圧」(または最高血圧)と言います。また、心臓が弛緩するときの動脈の血圧は最小となり、このときの血圧は「拡張期血圧」(または最低血圧)と呼ばれ、「収縮期血圧/拡張期血圧」のように表します。

 心臓から血液が送り出されるとき、左心室の血圧は120/5(mmHg)となり変動が大きいのですが、血液が動脈系(1)に流入すると血圧は120/80となり、その変動は小さくなります。これは動脈の弾性によります。動脈系の血管は、バネのように伸び縮みして血圧の変動を吸収し、心臓からの血液の流れを一定に保ちます。

 血液が各器官の末梢組織(2)に進むと、細動脈は直径が小さいため、血管の抵抗が極端に大きくなり(血液が流れにくくなり)、血圧は急低下します。(2)の直前の血圧は85で、出た直後の血圧は15です。また、毛細血管のレベルになると、血管の総断面積が最大となり、血流速度は最も遅くなります(連載3を参照)。

 血流速度が遅くなることにより通過時間が長くなるため、酸素や二酸化炭素のガス交換、栄養や老廃物などの物質交換の効率が上がります。

 最後は、静脈系(3)です。細静脈から静脈系を介して、心肺部に血液が戻ってくる過程で、血圧は下がり続けますが、血流速度は回復します。静脈系は、その容量が動脈系の5倍ほどあり、血液の65%は静脈系に蓄えられています。

 また、血管の伸展性が動脈系の20倍近くもあり少しの容量変化ではその内圧はほとんど変わりません。図10-a〜cは、血液が全身を流れる過程での平均血圧(血管内圧)、血管の断面積、平均流速の変動を示したものです。


<POINT!>
 流れの持つ圧力を「動圧」、流れがなくても受ける圧力を「静圧」と言う。
 太い管は静圧が大きい代わりに動圧が小さい。細い管は静圧が小さい代わりに動圧が大きい。
連載4 「血圧の測定方法」 >>
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