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コラム
今週のテーマ
(掲載日 2008.03.18)
<舞台> アジアのとある国
<設定> 大きな内戦が終わってから60年がたった。その内戦は民族対立に端を発し、10年にわたった。疲れ果てた国民は難民として周辺国に流れ出し、周辺国の治安悪化が進んだ。対立していた国民は、強い外圧を受けてようやく和解したのだった。もともと勤勉な国民で、交通の要衝にも位置していたため、戦後60年でその国は急速な発展を遂げた。その一方で、国民の間に新たな火種ができている。それは「年金問題」だった。
<主な登場人物>
 ○東都大学准教授・・・西山勘助(にしやま・かんすけ)
 ○保険勤労省年金局企画課課長補佐・・・斎藤誠太郎(さいとう・せいたろう)
 ○夕刊紙「毎夕新聞」の記者・・・島谷涼風(しまたに・すずか)
 ○保勤省年金局数理調査課・・・三森数馬(みつもり・かずま)
 ○年金問題に執念を燃やす政治家・・・西郷竜一郎(さいごう・りゅういちろう)
 ○与党 民自党党首・・・川上一太(かわかみ・いった)
※ 日本人に読まれることを想定しているため、日本的な名前にしているが、他意はない。
<< 第十四話「年金は難しい」 
<前回までのあらすじ>
年金問題に取り組んできた下院議員の西郷竜一郎はたびたび、国会でも年金問題を取り上げてきた。年金官僚の不正など、わかりやすい話にはマスコミも反応したが、国民の生活に本当に大切な制度問題には関心が集まらず、焦りを募らせていた。そんな時に起きたのが保険勤労省数理課の三森数馬の自殺だった。数馬が残した日記は年金問題に火をつけた。さすがに、制度にも国民の関心が集まり始めた。

 この物語は、保険勤労省の年金局数理課の三森数馬が自殺したことから始めた。しかし、年金問題は、それまで存在しなかったわけではない。

 人口の高齢化が進み、受給者が増えてきたことで、本当に給付が続くのかが心配になるのはどこの国でも同じこと。そして、財政的には無理があって、このまま続けることができないにもかかわらず、当局がいかにも続くように見せることも変わらない。

 そのため、難しそうな言葉を使い、多くの国民の関心をそらし続けることも共通している。問題は先送りされることで傷が深くなる。そうなると、手を打つことがさらに難しくなる。

 年金問題を追及し続けてきた下院議員の西郷竜一郎は、毎夕新聞が自殺した数馬が残した日記の存在を伝え、保勤省の絹田清明次官、年金局企画課長の斎藤誠太郎が逮捕されるなど、一連の事件を受けて国会質問に立った。答えるのは川上一太首相だ。

 西郷 総理、年金局の若い職員が亡くなったことをどう受け止めておられますか。

 川上 前途有望で、これから我が国のために働いてもらえるはずだった若者を失い、私としても慚愧の念に耐えません。

 西郷 私も同感です。ただ、総理の口から国民が聞きたいことは違うはずですよ。三森数馬さんが遺した日記で明らかになった保勤省の数々の不正やスキャンダル、国民をばかにしたような年金制度に関する裏話。これをどう受け止めているかをお聞きしたいのです。

 川上 こんなことを言うと、また、おしかりを受けますが、私も、三森さんの日記を読ませていただいて、驚いているのです。本当に、不徳の致すところですが知らなかった。いま、どこまでが真実で、どこまでが三森さんに間違ったことが伝えられていたのかを、確認させています。

 三森さんには失礼ですが、やはり、日記に書かれていたことが絶対に正しいとは決めつけられませんよね。三森さんがうそを書いていると言うつもりはありません。

 でも、大きな組織ではありがちなことですが、確認していない上層部の意向が、さも正しいかのように語られることはあることです。ひとつひとつ、本当のことなのかを確かめていく、これが大切なことだと思います。

 西郷 総理、さすがは百戦錬磨の政治家ですね。あなたに、率直な感想を求めた私が悪かったと思います。具体的に聞かせていただきましょう。

 前回、この場で私が質問させていただいた、「国の年金は払った保険料の何倍もらえるか」という設問なのですが、私は明らかに払い損だという主張をして、三森さんの日記には「子供だましの議論だ」とまで書いてあります。いま、いかがお考えでしょうか。

 川上 それについては、前回、宿題としていただいていました。おかげさまで、私も、少しだけですが勉強させていただきました。確かに、個人でも、きわめて長期間にわたって運用することができれば、保勤省が示した試算よりもうまくいくことがありえるでしょう。

 でも、なかなか、そうはいかないですよね。一定のお金があると、やはり手をつけたくなる。目先の相場が悪くなると、つい、怖くなって投資を続けることができなくなる。釈迦に説法ですが、「ドル平均法」と言いますよね、相場がいい時も、悪い時も、一定のお金を投資し続けることで、結果的に経済の大きな波に乗れるわけです。

 これ、理屈はわかるのですが、個人だといろいろ考えてうまくいかなくなるから、相場で大きな損を出してしまう人が後を絶たないわけです。

 西郷 総理、私はそんなことを言いたいのではないのです。もっともらしいことを言って、国民の目をごまかすことをするのはいかがなものかと。保勤省の試算というのは、運用がしっかりできたとして、それでも、物価上昇分を少し上回る程度の恩恵しか国民には与えられませんよ、と。

 そういうことを国民に伝えていると受け止めるのが正しいと思うのです。それを、払った分の2.1倍もらえるなんて、調子がいいことを言わせて認めているなんて、与党の管理責任が問われる問題ですよ。現実に、保勤省の運用は、これまで、想定した通りになんてなった試しがないじゃないですか。

 5年ごとに見通しを修正して、毎回のように年金の給付は下げます、でも、保険料は上げさせてくださいと。いくら都合のよい計算をしてみせても、もう、国民は聞く耳さえ持っていないと考えたほうがよいのではないかと思いますよ。

 川上 相変わらず、厳しいですな、西郷先生は。ただ、いまの年金制度は、「社会経済マルチ・スライド」といって、国民の努力によってはいい方向に持っていくこともできる制度なんです。

 もちろん、努力が足りない時には、約束した給付をすることができなくなることもありえる。国の栄枯盛衰とは別に、年金だけはしっかりしているなんてことはありえないということをしっかり制度に織り込んだ画期的な制度です。

 そのあたりは先生は十分にご理解されていると思うのですね。だからこそ、我々は責任ある与党として、経済をしっかり立て直すべく、様々な改革を提案させていただいています。先生にも、ご協力をいただけるとありがたいですね。

 西郷 政治家は言葉の仕事だといいますが、さすがにその頂点にいらっしゃる方だけのことはある。つい、私もひっぱり込まれてしまいそうな弁舌ですね。ただ、私が申し上げているのはそういうことではないのです。

 おっしゃるように、勤労者年金の制度そのものはよく考えられたものになっています。ところが、そこに入れる「変数」がおかしいのです。いくらいい制度でも、その中身が悪いと機能しない。中身というのは、あまりにも楽観的な見通しだということです。楽観的な見通しを立てると、将来はよくなるということですから、本当は、いま、打たないといけない手が打てなくなる。

 いまの制度でも、堅めの予測をもとに打つべき手を打てば、その時には国民は反発するかもしれませんが、いずれ、余裕が出てくることになります。どうして、問題を先送りするようなことを続けるのですかと聞いているのです。

 川上 西郷先生がおっしゃることは、私も理解しているつもりです。ただ、今回の社会経済マルチ・スライドは、保勤省も背水の陣で作った制度です。過去に失敗があったことも認めますが、私は、今回は信頼してもよいと思っているのです。

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