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テーマ  マジシャンの白いハンカチ
投稿者  日本医療総合研究所 取締役社長 中村 十念
 医療費の管理目標論議が盛んである。内閣府の経済財政諮問会議は高齢化修正GDPの伸び率を管理指標にしようとする魂胆である。それに関連する竹中内閣府特命担当大臣(経済財政政策)兼郵政民営化担当大臣の記者会見も行なわれた。その時、配布された資料のひとつが、私が「マジシャンの白いハンカチ」と呼んでいる資料である。(表1)

<表1> ※ 内閣府経済財政諮問会議資料
※ 画像をクリックすると大きい画像が表示されます。

 ○・○%という数字が7つ並んでいるだけで、ほとんど真っ白である。これだけ見せられたのでは、何のことかわからない。パーセンテージであるから、分母と分子があるはずである。分母は名目GDP、分子は医療給付費である。それをお見せすると次のようになる。

<表2> 単位:兆円
  2004年度 2010年度 2015年度 2025年度
高齢化修正GDP適用ケース 名目GDP(分母) 500.6 566.5 613.3 718.8
医療給付費(分子) 26.0 30.3 33.8 40.3
GDP比 5.2% 5.4% 5.5% 5.6%
厚労省試算ケース 医療給付費 26.0 34.0 41.0 59.0
GDP比 5.2% 6.0% 6.7% 8.2%

 普通、資料を出すときは、データ算出の根拠を出すものである。しかし、この資料からは、データが完全に消されている。自分で計算しろということになっている。何故だろう。それは、分母(名目GDP)を示すと、それを内閣府が公約したと受け取られるからではないか。

 GDPは、向こう20年間で200兆円以上も伸びる計算になっている。10年間では100兆円以上である。この10年間のGDPの伸びはわずかに20兆円に過ぎないことを考えると、内閣府には、それを公約する自信があろうはずがない。出してしまうと、医療費の伸び率管理どころか、GDP伸び率管理に大童になりかねない。だから出せない。

 いわば空想的GDPをもとに算出した医療給付費も、なかなかの水準である。(給付費であって医療費でないことに注意。給付費≒医療費−自己負担)給付費で2015年に33.8兆円というのは、見方によっては、魅力的な数字である。向こう10年間で7.8兆円伸びる計算になるからである。

 ちなみに、この10年間で給付費は4.7兆円程度しか伸びていない。それに比べると3兆円以上の高い伸びとなる。これもとても公約できる数字ではないので、出さないのである。経済財政諮問会議が欲しいのは、GDPが減ろうが増えようがお構いなしの名目GDP比5%台ということだけ。分母・分子は消さなければならないのである。だから、マジックなのである。

 ほんとに小泉内閣はマジックが大好きだ。
テーマ  ビジネス感性トレーニングを体感して
投稿者  九州大学専門大学院 医療経営・管理学講座院生 看護師 坂井 浩美
 病院経営を考える上で経営成績と財政状態を理解することは重要なことである。しかし、机上で損益計算書をながめてもなかなか数字が実感としてピンとこない。私には経営センスがないのかなと思う。こう感じる医療職は私だけではないだろう。

  先日、ビジネス感性トレーニング(BST、Business Sensibility Training)という講習を受けた。BSTでは、経営を「マネジメントゲーム」として疑似体験できる。プレーヤーが「仮想」会社の経営者となり、経営計画を立案、実行し、資金繰り表をつけていく。そして各期終了時に財務諸表として結果を出す。それにより、プレーヤーはそれぞれの経営総合力を評価されるのだ。

 BSTでは、参加者一人ひとりが自分の会社の社長である。ゲーム盤上で駒を使いながら、銀行から資金を借り入れし、仕入れた材料を商品として完成し、価格設定したうえで、市場で販売する。市場競争やリスクを考慮しながら、会社のクオリティ・コントロールもしなくてはならない。最初のうちは考える時間も余裕もない。無我夢中である。

***

 第1期が終わって「儲けていないな」という実感が残る。結果は財務諸表で歴然とわかる。「損益分岐点比率118.3%、総資本利益率7.1%」……なんとなく、やばい気がする。このままだと私の会社は倒産してしまうだろう。

 価格設定や会社の何に力を入れるかなど迷いながら第2期を終えた。ここで経営計画の立て方と収益構造などの講義を受ける。1日目は終了だ。最後に講師から「皆さんは社長ですので宿題はありません。皆さん自身の会社ですからね」と言われる。

 夜、財務諸表を見ながら講義内容を反芻し、どうしたら経営がよくなるのか考えた。次期はどのような計画を立て行動すればいいのか、テキストを利用しながら自己学習に熱が入る。なにせ私の会社だ。ゲームといえども倒産するのは嫌だ。すると経営計画は期毎で考えるのではなく、どんな会社にしたいのかというビジョン、長期的な経営計画、テーブルを同じにする他の参加者、つまり市場の分析の必然性に気がついた。そして計画書を作成し、実現に向けて戦術を練った。

***

 次の日、第4期が終了して、結果的に私の会社は損益分岐比率63.6%、総資本利益率20.0%まで持ち直した。

 BSTを通して私は「気づく」ことの意味の深さを改めて考えるようになった。経営の意思決定のために何が必要かを自らが気づくことで、必要な知識、情報を自らが得ようとする。講義で得た知識は、すぐに次の経営判断に役立てることができた。「感性」をトレーニングするということは気づく自分を磨くとともに、次の展開への行動力をつけることだと私は体感した。

 BSTは、一般企業の経営の疑似体験をするものであり、病院経営にはなじまない部分もある。しかし、おさえるべき経営のツボは同じはずである。マネジメントゲームで経営を疑似体験することは、医療従事者にとっても経営を理解するうえでの第一歩となるのではないだろうか。
【解説:BST】
 ゲーム盤を使った経営の疑似体験セミナー。ゲームを通じて、「顧客満足度(CS)」や「キャッシュフローの意義」、「組織における真の収益性」、「日々の経営行動と収益の関連性」等に対する感度を養うことができる。
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